『インターステラー』 壮大な見世物
『インターステラー(原題:Interstellar)』の面白さは、銀河系の外へ旅するSFと父と娘の家庭劇とを1枚のタペストリーのように緊密に織りあげたことだろう。登場人物のキャラクターをていねいに描写するだけでなく、宇宙空間の旅と父娘の愛情とが物語の根本のところで離れがたく結びついている。
脚本はクリストファー・ノーラン監督と弟の脚本家ジョナサン・ノーランが共同で書き、製作に理論物理学者のキップ・ソーンが加わっている。だから理論物理学による可能性に基づいてストーリーが構想され、ブラックホールやワームホール(光より早く時空を移動できる宇宙の抜け道)のイメージがつくられている。もちろん物語そのものは壮大なつくり話なんだけど。
未来の地球。砂漠化が進んだ地球は砂嵐が吹き荒れて農作物が次々に枯れ、人類は移住先を求めて銀河系外の惑星を探索している。トウモロコシ農場を営む元宇宙飛行士のクーパー(マシュー・マコノヒー)は、娘のマーフ(成人後はジェシカ・チャスティン)の部屋で起きた超常現象に導かれて国家秘密の基地にたどりつき、再び宇宙へ出かけることになる。宇宙船には探索計画のリーダー、ブランド博士(マイケル・ケイン)の娘アメリア(アン・ハサウェイ)も乗り組んでいる。彼らは土星近くのワームホールを通って銀河系の外に出、先行した探索機の行き先である3つの惑星を目指す……。
行かないでというマーフの願いをふりきって宇宙へ旅立ったクーパーは、地球へ戻るためブラックホールを抜けて立方体が連なる5次元空間に入り込む。このあたりの映像は見ていて興奮する。その空間は、マーフの部屋と背中合わせになっている。超常現象は宇宙から戻ったクーパーが娘に送った信号だった。マーフはそれを理解する。「愛だけが時間と空間を超える」というセリフがあって、言葉だけ取り出すと安っぽいドラマみたいだけど、圧倒的な映像と緊迫した物語の積み重ねの末に出てくると説得力がある。
見どころはクーパーたちが探索する3つの惑星の描写だ。去年の『ゼロ・グラヴィティ』は宇宙の無重力空間がどんなものかを疑似体験させてくれたけど、それとはまた別の楽しさがある。大海原がつづき巨大津波が襲う第1の惑星。氷に覆われた第2の惑星。映画はもともと見世物として出発したけど、見たこともない風景にはやはり興奮する。突っ込みどころはいくらもあるけど、見ているあいだ画面に釘づけされればよく、後から気づく矛盾は気にしないのはヒッチコックもそうだった。
そうそう。第2の惑星でいきなり大物俳優が出てきてびっくり。確かエンドロールにはクレジットされてなかったからカメオ出演なのか。
ノーラン監督は、この映画をつくるに当たってSF映画をはじめさまざまな作品を参考にしたと言っている。
誰にもすぐわかるのは『2001年 宇宙の旅』だろう。主人公が宇宙空間に旅立ち、異次元の地球に帰還するという基本構造はまったく同じだ。それだけでなく宇宙船がタイムワープするときの映像や、広大な宇宙空間にぽつんと浮かぶ小さな宇宙船、惑星の陰から太陽が顔を出して光が一直線に広がるショットなど、『2001年』を思い起こさせるものがいくつもある。石柱のようにそそりたつモノリスも、この映画の人工知能ロボットTARSの形に生かされている。
TARSに関しては『スターウォーズ』のR2D2も思い出した。特に「ユーモア度」や「本気度」の設定とか、クーパーとTARSが交わすユーモラスな会話について。宇宙空間に浮かぶ宇宙船の威容は『スターウォーズ』第1作の最初のショットで度肝をぬかれたけど、もちろんこれも参考にされているだろう。
監督はSFの古典『メトロポリス』や『ブレードランナー』の名前も挙げている。これは具体的にどこを参考にしたというより、作品に流れる気配やテーマに関してだろう。またクーパーの造形について『ライトスタッフ』に影響を受けたと言っているが、そういえばマシュー・マコノヒーのクーパーは『ライトスタッフ』のサム・シェパードに似てなくもない。クーパーの農場やトウモロコシ畑、野球場など地球のシーンは『フィールド・オブ・ドリームス』や『冷血』といった中西部の農業地帯を舞台にした映画を思い出した。
この映画はSFなのにCGが最小限でしか使われていない。俳優がグリーン・スクリーンの前で演技し、背後にCG画面を合成させる手法はまったく使われていないそうだ。そのために何機もの宇宙船をセットでつくり、船の内部も外部もセットで撮影した。また銀河系外の惑星シーンはアイスランドなどにロケしている。
ノーラン監督はデジタル撮影をせずフィルムにこだわっていることでも有名だ。この映画もIMAXと35ミリのフィルムで撮影している。フィルムにこだわり、CGに頼らない。この映画、最初はスピルバーグが監督することになっていた(wikipedia)。そうしたらずいぶん違う映画になっていたろう。ノーランの映画への愛を感ずるなあ。
(おまけ)このメイキング映像が面白い。
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