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September 11, 2014

『ケープタウン』 なぜ英語なのか?

Zulu
Zulu(viewing film)

ケープタウン警察の刑事アリ(フォレスト・ウィテカー)が黒人地区のスラムにある娼婦の家に入ってゆく。アリはベッドに横たわる娼婦のそばに座り、彼女の体に触れる。が、それ以上のことをしない。モノクロームで過去がフラッシュバックされる。アパルトヘイトの時代、少年のアリは警察犬に追われ、性器に噛みつかれた。別の場面では、火をつけられころげ回る黒人をスラムの家のなかから見ているアリ少年のフラッシュバックもある。

アリが刑事仲間のブライアン(オーランド・ブルーム)、ダン(コンラッド・ケンプ)夫婦と、ダン家の庭でパーティをしている。白人のブライアンとダンは、同じ白人の警察署長を「人種差別主義者」と悪口を言う。でも黒人のアリだけは、「署長はズールー族の俺を刑事に取り立ててくれた」としか言わない。

『大統領の執事の涙』もそうだったけど、こういうときのフォレスト・ウィテカーは黙っているだけでその身体から抑えつけた怒りと、怒りを抑圧する自分に対する悲しみが噴きだす。そんな屈折した感情をアリだけでなく、酒びたりの相棒ブライアンもまた抱えていることで、『ケープタウン(原題:Zulu)』は陰影濃い犯罪アクション映画になった。

元ラグビーのスター選手の娘が暴行され死体で発見される。娘は麻薬をやっていたが、そこには未知の成分が含まれていた。アリとブライアンが捜査していくと、スラムで頻発する黒人少年失踪事件にも同じ麻薬がからんでいることがわかる。その麻薬を飲むとはじめ快感が得られるが、やがて他人に攻撃的になり、共食いをはじめる。2人が麻薬組織を追っていくと、極秘にされた国家犯罪の影が見えてくる……。

原作の『ズールー』はフランスでベストセラーになったミステリー。翻訳や紹介がないのでよくわからないけど、アパルトヘイト時代の南アフリカで実際にあった「プロジェクト・コースト」事件が素材になっているようだ。「プロジェクト・コースト」は、アパルトヘイト撤回を求める世界の声に頑強に抵抗したボタ首相の下で開発が進められた生物化学兵器製造計画(wikipedia)。ある種のワクチンによって黒人の大量虐殺・抹殺を狙ったものらしい。

フランス資本、フランス人の監督(ジェローム・サル)、主演(オーランド・ブルーム)のフランス映画ながら、全編南アフリカ共和国で撮影されている。フォレスト・ウィテカーはアメリカの役者だし、言葉も英語だから、多国籍(無国籍)映画のような匂いもある。もっとも出演者が英語をしゃべるのは商売優先のハリウッド風が理由でなく、南アでは英語が公用語だから。

かつての支配者アフリカーナー(オランダ系白人)が使うアフリカーナ語、多くの部族からなる黒人が使うズールー語など多様な民族語が入り混じって南アには11もの公用語がある。が、実際には英語がその役を果たしているらしい。映画でも出演者がぎこちない英語をしゃべったり、時々英語ではない言葉をしゃべってる。南アの現実をきちんと反映してるんだろう。

映画が描く貧富の差もすさまじい。ブライアンの別れた妻は、エリートの歯科医と同居して大きな邸宅に住んでいる。一方、娼婦や少年たちが暮らすのは一面にバラックの広がるスラム。このスラムにカメラを持ち込んで撮影したのは初めてだそうだ。ヘリからの映像が印象的。

映画はどこまでも映画であってそれ自体を楽しめばよく、例えば映画を通して南アの現実を知るのはあくまで副次的な要素でしかない。でも、フィクションであれ行ったことのない場所、会ったことのない人々を知り、彼らが抱えている問題を理解するのは映画のもつ大切な役割だ。

最後、アリは刑事としての職務を超えてナミビアの砂漠まで黒幕の科学者を追いかける。無秩序な都市から白い砂漠へ。サービス精神満点で、よくできたエンタテインメントでした。


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Comments

こんばんは。

この作品、かなり評判がいいですね。
いま、こちらの記事を拝見して、
そうだった、そうだった…と。
ある意味、ミステリーでもあり、社会性もある。
このアプローチに
『ナイロビの蜂』を少し思い出しました。

Posted by: えい | September 25, 2014 at 10:15 PM

『ナイロビの蜂』とか『裏切りのサーカス』とか、ジョン・ル・カレ原作の映画は社会性とミステリーのバランスがいいですね。

この映画もフランスのミステリーが原作のようです。翻訳が出てないようですが、読んでみたいもんです。

Posted by: 雄 | October 08, 2014 at 12:47 PM

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