『ローマ環状線 めぐりゆく人生たち』 郊外の風景
ローマ郊外をめぐる環状線GRAは東京で言えば環状8号線といったところだろうか。もっとも道路脇では羊が放牧されていたりするから、風景としては市街地を走る環8ではなく田園地帯も走る外環状線に近いかもしれない。『ローマ環状線 めぐりゆく人生たち(原題:Sacro GRA)』はGRA沿いに住む人々を追ったドキュメンタリー。ヴェネツィア映画祭でドキュメンタリーとして初めての金獅子賞を獲った。
ローマ環状線は、観光地としてのローマの外側をぐるっと巡っている。観光客からは見えない郊外で、ふつうの人々が暮らす。主な登場人物は6、7人。ジャンフランコ・ロージ監督は、彼らとそれぞれ数か月にわたって行動を共にした後でカメラを回したという。彼らの生活の断片が、ある者はワンショットで、ある者は長く、そして何度も、かわりばんこに映し出される。
いちばん印象的なのは、ヤシの害虫を調べて回る植物学者。学者といってもちゃんとした研究者というより、独学の偏屈者といった風情の老人だ。大きなヤシの枯れた葉の茎から内部へマイクを差し込んで害虫がヤシを食べる音を聞き、録音している。何も説明されないけど、害虫がローマ中のヤシを食い荒らし、老人はそれにひとり危機感をつのらせているのかもしれない。彼は、害虫ががりがりとヤシを食う音をカメラに向かって聞かせている。
広い館を貸スペースにしている没落貴族。優雅な部屋でバスにつかって葉巻をくゆらすけれど、生活は苦しそうで、パブリシティに余念がない。家を持たず、車上生活しているトランスジェンダーの男。早朝、環状線の路肩で大きく伸びをする姿が素敵だ。無機質な郊外アパートの一室で、四六時中おしゃべりしている老いた父と娘。環状線に出動して忙しい救急隊員は、老いた母の面倒を見ている……。
別に事件が起こるわけではない。なにかが完結するわけでもない。明日もまた今日のようにつづく日常。フランス語なら「セ・ラ・ヴィ」、それが人生さ、と言うけれど、イタリア語にもそんな言い回しがあるんだろうか。
洒落ていて、上品な味わいの映画。93分と短めの上映時間もいい。ただ、このところ『収容病棟』『アクト・オブ・キリング』とたてつづけに超重量級のドキュメンタリーを見てしまった。それらのずっしりと重い感触に比べると、良くも悪くもウェル・メイドだなと思えてしまうのは致し方ない。
Comments
これ先日観たけど書いてなくて・・
>良くも悪くもウェル・メイド
言われてみれば確かにそうかも。
何も起こらないことが狙いなんだけど、そこからの何かっていうのが今一つ迫ってこなかったです。それがあればすごくいいのにと思うんですが。
Posted by: rose_chocolat | August 28, 2014 03:51 PM
何も起こらないその先については、これも良くも悪くも提示されていませんね。たとえば植物学者や没落貴族に過剰な意味を持たせれば、都市の未来ふうな寓意になるのかもしれないけど、それも抑制してるし。エンド・ロールにポップな歌が流れて気持ち良く終わる。それでよしとしてるんでしょうね。
Posted by: 雄 | August 29, 2014 12:04 PM