『友よ、さらばと言おう』 ノワール的アクション
元刑事のシモン(ヴァンサン・ランドン)がマフィアに息子の命を狙われ、復讐を決意する。勝手知ったるトゥーロン警察の武器庫から拳銃を盗み出し、外へ出ると車が1台、闇のなかに停まっている。運転席にいるのは元相棒の刑事フランク(ジル・ルルーシュ)。彼は言葉少なにシモンに言う。「お前ひとりでは無理だ」。まるで、耐えに耐えた末に殴り込みに出かける高倉健に、ドスを持った池辺良が無言ですっと寄り添う東映任侠映画のようなシーン。二人の横顔を陰影深くアップで捉えた映像に、かつての東映ファンはぞくぞくしてしまう。
東映任侠映画は様式美の世界だったけど、そこにアクションとスピードを持ち込んだのは『仁義なき戦い』の深作欣二だった。ジョゼ・ジョバンニに代表されるかつてのフレンチ・ノワールも派手なアクションは少なく、主人公の熱い情動をじっくり追うタイプの映画が多かった(もう一方にメルヴィルのクールで寡黙なノワールもあったけど)。
最近のオリヴィエ・マルシャル監督の『友よ、静かに死ね』など一連の映画はそんなフレンチ・ノワール正統派、心情の映画の伝統を継いでいる。似たようなタイトルだけど、『友よ、さらばと言おう(原題:Mea Culpa)』は深作欣二がやったようにフレンチ・ノワールにアクションとスピードを持ち込んだ。
シモンと、現役刑事でありながらシモンとともに行動するフランクの友情、そして二人に秘められた過去は、短いけれど陰影に富んだショットで描かれる。必要以上に長い心情描写をせず、すばやい場面転換とアクションに乗せられて、最後まで見てしまう。『CSI』などアメリカの警察ものテレビ映画の感触に近い。
この映画の原題「Mea Culpa」はラテン語で「わが罪」という意味だそうだ。エディット・ピアフが同名の曲を歌っているからフランス人にはなじみがあり、ある種の宗教的な感情を引き起こす言葉なんだろう。ここでもフランクのシモンに対する倫理的な罪が、ふたりの現在に影を投げかけている。だからこそ、フランクは現役の刑事でありながらシモンの個人的復讐に加担する。
もっとも、「わが罪」にしても「えーっ」と思うような設定だし、オートバイと子供の追いかけっこや、TGVの線路上での殴り合いとか、後で考えると無理筋が目につく。でも見ている間はそれを意識させないだけのスピード感が、フレッド・カヴェイエ監督の持ち味なんだろう。新作ではハリウッドへ進出するらしい。デビュー作『すべて彼女のために』はハリウッドでポール・ハギス監督が『スリーデイズ』にリメイクしたけれど、ポール・ハギスのような優れた脚本家に巡り合えば面白い映画をつくるんじゃないかな。楽しみだ
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