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June 26, 2014

『闇のあとの光』 不意打ちの映像

Photo
Post Tenebras Lux(viewing film)

若いころゴダールやアレン・レネを見たから、物語性の薄い映画(わからない、と言われる映画)に対して抵抗感はまったくない。でも年齢とともに心身が衰えてくると、物理的にこらえ性がなくなってきた。ちょいと寝不足のとき、物語やアクションが停滞すると眠くなってくる。ゴダールを見ながら、初めて寝てしまったときはショックだった。といって、その映画が退屈なわけでもない。1、2度、カクンとした後はしゃきっとする。だから最近は寝ても気にしないことにしている。『闇のあとの光(原題:Post Tenebras Lux)』もそうだった。見終わった後の印象は、むしろ深い。

いくつものシークエンスが説明抜きにつながっている。やがて分かってくるのは、裕福な白人の農場主一家をめぐる生と性、二つの死の物語。

メキシコの山村。黄昏の光。水溜りの野原を馬や牛、犬が走りまわる。小さな女の子、ルートゥがそれを追う。カメラ位置は低く、彼女の目線。スタンダード・サイズの画面の周囲がにじんで、像が二重に歪む。やがて闇が訪れ、雷鳴が轟く。

ルートゥが目覚める。兄のエレアサルと両親のベッドへ行く。ベッドから起きた父親のフアン(アドルフォ・ヒメネス)が、いきなり飼い犬を殴打しはじめる。虐待をやめられないんだ、とフアンは妻のナタリア(ナタリア・アセベド)に告げる。豊かで幸せそうな家族に、早くも亀裂が入りはじめる。

フアンの家に、赤く発光する精霊のようなものがやってくる。動物の頭に角と尻尾と男根を持った、動物と人間が合成されたような姿(これはCG)。精霊は廊下を歩いて扉の向こうに姿を消す。

アルコール依存症の男たちが禁酒会の集まりで話をしている。粗末な小屋。男たちはインディオ系で、どうやら農場で働く男たちらしい。

白人の少年たちがラグビーをやっている。上流階級が行く寄宿学校の授業らしい。

フアンとナタリア夫妻がサウナ風呂に出かける。「ヘーゲルの間」とか「デュシャンの間」と呼ばれる部屋があり、性交の場になっている。フアンはナタリアのバスタオルをはずして客たちに妻を見せ、彼女は男と交わる。何人もの男と女がそれを見ている。

こんなふうに無関係なシークエンスがつづいていく。物語が動きだすのは映画の後半、一家の留守の間に使用人が家具を盗もうとし、戻ってきたフアンと鉢合わせ、使用人がフアンを銃で撃ってしまうところから。といって、このあとも物語が直線的に進むわけではない。

成長した兄妹が海辺でたわむれている。白い波が浜に寄せる。これは未来の光景なのか。

時間と場所、現実と夢を行き来しながら、主人公と周辺の人間たちの行動の断片が価値判断なしに投げ出される。少年少女の無垢と、男たち女たちがむき出す欲望。持てる者(白人)の退廃と持たざる者(インディオ)の暴力。そんな人間たちを包みこむ、深い森と逆光に輝く海辺、闇に轟く雷鳴や黄昏の光。

数年前に見た『悲しみのミルク』はラテン・アメリカの神秘と社会的視点を併せ持った映画だったけど、カルロス・レイガダス監督の『闇のあとの光』にも似たようなところがある。もっとも、『悲しみのミルク』は少女の恐れの感情にフォーカスを合わせ物語としての完成度が高かったけれど、この映画では断片が断片のまま放り出されている。それだけに不意打ちの映像に打たれる。ラストショット、二つ目の死に愕然とした。

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