岡田美術館のびっくり
visiting Okada Museum, 岡田美術館の建物(ユニバーサル・エンタテインメントHPから)
先週、箱根の芦之湯に行ったとき、去年秋にオープンした岡田美術館を訪れた。歌麿の巨大な肉筆画「深川の雪」が展示されているというニュースを見たからだ。立派な美術館で、小涌谷のバス停を降り館内へ入ったところから、驚くことばかりだったなあ。
驚き、その1。入舘料に驚いた。2800円。箱根の美術館は観光地である上に私立美術館ばかりだから、全体的に入館料が高い。それにしても、この強気の設定はどういうこと? 高いなあと感ずるポーラ美術館でさえ1800円(シニア1600円)だ。シニア割引もない。金持ちの中国人観光客で稼ごうということか。
驚き、その2。厳重なセキュリティー・チェック。チケットを買うと、まずカメラ、スマホ、飲み物を無料ロッカーに入れ、空港と同じ金属探知機をくぐらなければならない。手荷物はこれも空港と同じX線検査を受けなければならない。こんな厳重な美術館ははじめて。展示室に入って、ああなるほどと思った。展示はすべて厚いガラス越し。たいていの美術館にいる案内兼監視の係員がまったくいない。入口を厳重にして人件費を抑えようということか。
驚き、その3。展示室に入ると、その広さと展示品の質と量はなかなかのもの。岡田美術館は日本・中国・韓国の東アジア美術、なかでも絵画と陶磁器が中心になっている。中国は古代の青銅器から唐三彩、景徳鎮をはじめとする各時代の焼き物。韓国は高麗青磁や李朝白磁。日本は縄文土器や埴輪に始まり、古九谷、鍋島、京焼の仁清や乾山など。絵画は日本の桃山・江戸以降。琳派や若沖ら「奇想の系譜」、大観ら近代日本画まで。まあ、これだけたっぷり見られれば入館料への怒りは多少柔らぐ。
後で調べたら、ここ十数年で集めたコレクションと知って改めてびっくり。中国・韓国の古陶磁の名品や仁清、乾山、若沖、大観、上村松園、平山郁夫など、億単位で購入した作品もあるらしい。重要美術品も数点あったから、こういう品を売買できる市場があるということか。それにしてもこれだけのものを十数年で集めるとは、どれだけ金がかかったんだろう。
ただ、全部を見てもコレクターの趣味を感ずることはできない。幅広く集められてはいるが、コレクターの愛がどこに向いているかがはっきりしない。ポーラ美術館ならコレクターの(いかにも日本人好みの)印象派への偏愛が明らかだし、ニューヨークのフリック・コレクションなんか成金らしからぬ(?)品の良さが強く感じられる。良くも悪くもコレクターの趣味が感じられるのが私立美術館。それがここには希薄だ。
驚き、その4。「パチンコ王」。コレクターが岡田という名前だと知ったとき、「箱根・美術館・岡田」というキーワードで思いついたのは箱根美術館・MOA美術館の創設者で世界救世教の岡田茂吉だった。宗教関係なら、これだけのコレクションを短時間で集めることは可能だろう、と。
でも、調べてびっくり、コレクターの岡田和生氏は「パチンコ王」と呼ばれるお金持ちだった。長者番付トップになったこともあり、米誌『フォーブス』によれば個人資産約1700億円。僕は20年以上パチンコをやったことがないので最近の事情に疎いけれど、パチスロの製造で財をなしたらしい。スロット・マシンだけでなく、パチンコやゲームも手がけるユニバーサル・エンタテインメントの創設者にして会長。海外でカジノも経営している。
そういえばユニバーサル・エンタテインメントという社名に覚えがある。自民党の選挙応援に社員を派遣したとか、フィリピンのカジノ開発に絡んで贈賄容疑でアメリカのFBIが調べているとかのニュースで出てきたなあ。ちょっとブラックな気配。
こういう人(会社)なら短期間でこれだけのコレクションを集め、箱根の一等地に土地を買い、豪華な美術館を建てる財力を持っているのもうなずける。現在の日本のお金持ちの一典型かもしれない。まあ、他のことに使うより、こんなふうに美術品を集めて公開するのはお金の使い方として悪くない。将来、会社が傾いたら美術館も閉鎖、なんてことにならないよう願いたい。
にしても、2800円ではもう一度行こうとは思わない。ま、向こうも2800円を高いと思う客を相手にしてないだろうけど。
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