芦之湯につかる
a trip to Ashinoyu Spa in Hakone
箱根の芦之湯へ出かけた。
芦之湯は江戸時代に箱根七湯と呼ばれた七つの温泉のひとつ。東海道の鎌倉古道沿い、現在の国道1号線小涌谷と元箱根の間、国道から100メートルほど山に入ったところにある。
江戸時代の湯船を再現した源泉風呂。左は白濁した硫黄泉、右は透明な重曹泉。
もうひとつの源泉から引いた硫黄泉の大風呂。
芦之湯がいちばん栄えたのは江戸時代らしい。当時の「諸国温泉番付」で東の五番目、前頭筆頭に挙げられている。共同の湯を囲んで6軒の宿があり、湯治客でにぎわった。賀茂真淵、大田南畝ら文人墨客が集まる文化サロンもあったという。今回泊まったのは、当時から300年続いている宿の一軒。
硫黄泉の風呂。
「箱根の山は天下の険」と歌われるけれど、車で簡単に走れる今となっては想像しにくい。でも江戸時代以前の鎌倉古道(湯坂道)がどんなルートだったかと言えば箱根湯本から湯坂山、浅間山、鷹巣山と、現在はハイキング・コースになっている尾根道をたどって芦之湯へ出る。山をいくつも越えてきた旅人にとって芦之湯につかるのは命の洗濯のように感じられたろう。鎌倉古道は芦之湯から、当時は硫黄の煙が立ち上り石仏群のある峠を越えて芦ノ湖にくだった。
江戸時代に入って須雲川沿いの東海道(旧道)が整備されてからは、畑宿から芦之湯へ急坂を登った。宮ノ下から元箱根へ抜ける現在の国道1号線が整備されたのは明治後期のことで、芦之湯集落の住民らが道路を開削したという。
近くの湯の花温泉から引かれた重曹泉。
今、芦之湯を訪れる観光客は多くない。若い人が遊べる施設はないし、食事できる店もない。でも、だからこそかつての湯治場の雰囲気を味わえるのかもしれない。
宿の古い棟は木造で、昭和モダン。
部屋から見た新緑。
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