« 『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 アメリカの(悪)夢 | Main | 『家族の灯り』 映画史を体現する監督 »

February 15, 2014

『アメリカン・ハッスル』 えっ、あのジェニファーが

American_hustle
American Hustle(film review)

『アメリカン・ハッスル(原題:American Hustle)』の面白さはどこから来るんだろう? 

『スティング』みたいな「コン・ゲーム」だから? FBIが詐欺師を使っておとり捜査するお話だから、その要素はある。詐欺師のアーヴィン(クリスチャン・ベイル)と相棒で愛人のシドニー(エイミー・アダムス)がFBI捜査官・リッチー(ブラッドリー・クーパー)に逮捕され、罪をまぬがれるためおとり捜査に協力することになる。2人はアラブの富豪が投資するでっちあげ話で地方政治家のカーマイン(ジェレミー・レナー)とマフィア(カメオ出演のロバート・デ・ニーロら)に詐欺(ハッスル)を仕掛けようとする。その結末やいかに?

「コン・ゲーム」というより、男と女のお話だからか? たしかにそうだ。アーヴィンは結婚して妻がいる。金髪美女の妻ロザリン(ジェニファー・ローレンス)は情緒不安定で、マフィアの男に近づき、おとり捜査をぶちこわしそうになる。アーヴィンはそんなロザリンに惚れてるのに、シドニーにも愛人という以上に真剣な感情を持っているらしい。捜査官のリッチーも、捜査の過程でシドニーといい雰囲気になってくる。この二組のもつれた関係がどういう結末を迎えるのか?

『アメリカン・ハッスル』は同時に男と男の話でもあって、友情の味もある。FBI捜査官と詐欺師という本来は敵同士がチームを組むことになる。敵であり味方でもある男たちの間に、女性のシドニーが入ってくることで、この男2人の関係はいよいよ複雑になってくる。一方、アーヴィンは騙す相手のカーマインにも友情に近いものを感じている。男も女も感情の糸がこんがらかって、どこに出口があるのか映画の最後まで分からない。

そんなふうに、詐欺の騙しと男と女の複雑に絡みあった感情と、2種類の糸がもつれあうところから滲み出る面白さとおかしさが、この映画の魅力。どちらかというとコン・ゲームというより、出てくる誰も彼もが自分に弱みを抱えた人間たちのこんがらかったラブ・ストーリー。

それに加えて役者の魅力、しかも従来の役を裏切るような新しい魅力が楽しい。映画の冒頭、頭の淋しいアーヴィンのクリスチャン・ベイルがつけ毛で増毛させながら一九分けしてスーツを着るファースト・シーン。一見して鬘ではないし、髪を剃ったのか? 『マニシスト』で30kg減量してみせたクリスチャン・ベイルは、今回は3段腹を見せる。バットマンから一転してぶざまな70年代ふう中年男。

ブラッドリー・クーパーは『ハングオーバー!』や『世界にひとつのプレイブック』とも似たエキセントリックなところのある役どころ。FBI捜査官といいながらパンチパーマにしたり、下層出身らしい家庭がちらっと描かれるのがいい。

エイミー・アダムスはどちらかというと知的な痩せ型だけど、胸を大きくえぐったドレスが悩ましい。いちばん驚いたのはジェニファー・ローレンス。『世界にひとつのプレイブック』のときも『あの日、欲望の大地で』や『ウィンターズ・ボーン』の少女がこうなったの? とびっくりしたけど、今回はさらに驚くエロティックな金髪美女。ピンナップ・ガールふうな外見に、蓮っ葉な言葉と雰囲気。『007 死ぬのは奴らだ』を歌いながら掃除するシーンにはやられました。

これだけの役者を使い、しかもみんな従来のイメージを裏切る魅力を引き出したデヴィッド・O・ラッセル監督は、やはり只者じゃない。昔見て面白かった『スリー・キングス』も彼の監督だったんですね。コメディに関して、やはりハリウッド映画はすごい。ついでに、衣装も髪型も70年代ふうで、今となってはダサく感じられるのが、その時代に青春を送った一人としてなんとも懐かしかった。デューク・エリントンや70年代ポップスが流れる音楽も。

 

|

« 『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 アメリカの(悪)夢 | Main | 『家族の灯り』 映画史を体現する監督 »

Comments

男も女も、好きな役者さんばかり。ぜひ、見たいです。エイミー・アダムスは、それほどでもないかな?

Posted by: aya | February 19, 2014 05:29 PM

役者を見ているだけでも楽しいです。特にデ・ニーロが出てきたときは、お、おっという感じ。ジェニファーは意志の強い少女役が印象に強かったので、これもびっくりでした。

Posted by: | February 20, 2014 09:58 PM

「恋におちて」のデ・ニーロは、初々しくてよかったなぁー

Posted by: aya | February 21, 2014 04:59 PM

ニューヨーク郊外からマンハッタンに向かう電車のなかで出会うやつですね。デ・ニーロもメリル・ストリープも若かった。

Posted by: | February 23, 2014 06:02 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 『アメリカン・ハッスル』 えっ、あのジェニファーが:

» デヴィッド・O・ラッセル監督『アメリカン・ハッスル(American Hustle)』 [映画雑記・COLOR of CINEMA]
注・内容に触れています。アメリカで起こった収賄事件「アブスキャム事件」を基に「ファイター」「世界にひとつのプレイブック」のデヴィッド・O・ラッセル監督が映画化した『アメリカン・ハッスル(America... [Read More]

Tracked on February 15, 2014 07:47 PM

» アメリカン・ハッスル [映画的・絵画的・音楽的]
 『アメリカン・ハッスル』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。 (1)本作は、今度のアカデミー賞にノミネートされているというので(注1)、映画館に行ってきました。  映画の冒頭は、1978年4月28日、ニューヨークにあるプラザホテル内の一室。  主人公のアーヴィン(クリ...... [Read More]

Tracked on February 15, 2014 08:32 PM

» 詐欺師/懐かしの70年代 ~『アメリカン・ハッスル』 [真紅のthinkingdays]
 American Hustle  詐欺師のアーヴィン(クリスチャン・ベイル)と、その愛人にして相棒のシドニ ー(エイミー・アダムス)。完全犯罪を常としてきたふたりだったが、遂に逮捕さ れてしまう。FBI捜査官リッチー(ブラッドリー・クーパー)は、彼らに大物政治 家の囮捜査を持ち掛けるが、そこにアーヴィンの妻ロザリン(ジェニファー・ロ ーレンス)が口...... [Read More]

Tracked on February 15, 2014 08:48 PM

» アメリカン・ハッスル/クリスチャン・ベイル [カノンな日々]
1979年のアメリカで実際に起きた政治家などの収賄スキャンダル、アブスキャム事件を題材に映画化したドラマです。アカデミー作品賞にノミネートされ日本でもにわかに注目を集めつつ ... [Read More]

Tracked on February 15, 2014 10:03 PM

» アメリカン・ハッスル/AMERICAN HUSTLE [我想一個人映画美的女人blog]
ランキングクリックしてね larr;please click 70年代後半に実際に起った汚職スキャンダルを基に、FBI捜査官に捜査協力を依頼された天才詐欺師が 政治家たちにオトリ捜査を仕掛けていくドラマ。 3月発表のアカデミー賞にて、作品賞含む最多部門で...... [Read More]

Tracked on February 15, 2014 10:38 PM

» 「アメリカン・ハッスル」 自分騙し [はらやんの映画徒然草]
ゴールデン・グローブ賞を受賞し、アカデミー賞にも多くの部門でノミネートされている [Read More]

Tracked on February 16, 2014 07:13 AM

» 映画:アメリカンハッスル American Hustle 破綻しカオス状態に陥るプロット(笑)を勝ち抜くのは誰だ?! [日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜]
話題のド真ん中にいる今作。 先日のゴールデン・グローブ賞で、作品賞、主演女優賞(アダムス)、助演女優賞(ローレンス)を受賞。 アカデミー賞では最多10部門にノミニー、それらは以下の部門。 (作品賞、監督賞、主演男・女優賞、助演男・女優賞、最優秀脚本賞、...... [Read More]

Tracked on February 17, 2014 08:20 PM

» 「アメリカン・ハッスル」 [ここなつ映画レビュー]
アメリカらしい作品。軽快で練れていてキャラが立ってて。芸達者な役者陣に支えられて最後の最後まで楽しめる。 とはいえ「諸手を挙げて絶賛」とまではいかないのは何故なんだろう?題材も展開もすごく好きなジャンルなのにね。この監督デビッド・O・ラッセルとは相性が合わないのかも。「世界でひとつのプレイブック」は世の中的な絶賛は私にはちっともピンとこなかったし。「スリー・キングス」は良かったんだけどなぁ。ほんの少し粗筋。詐欺師を生業としている男、アーヴィン(クリスチャン・ベール)。贋作の販売から融資詐欺までをこな... [Read More]

Tracked on February 21, 2014 04:21 PM

» 『アメリカン・ハッスル』『なんちゃって家族』 [ラムの大通り]
(原題:AMERICAN HUSTLE/WE’RE THE MILLERS) ----あ〜あ、とうとう 『アメリカン・ハッスル』、 お話をしてくれないまま。 『メイジ―の瞳』もそう。 『なんちゃって家族』なんてとっくに始まっちゃってるよ。 フォーンが天国に行っちゃったからって、 これはちょっと...... [Read More]

Tracked on February 23, 2014 06:24 PM

« 『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 アメリカの(悪)夢 | Main | 『家族の灯り』 映画史を体現する監督 »