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January 14, 2014

『永続敗戦論』を読む

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30代の若い書き手として評判になっている白井聡の『永続敗戦論』(太田出版)を読んでみた。

この本が論じているのは、「戦後」とは何だったかということ。といっても歴史的出来事や事実を問題にしているのではなく、「戦後」をどのようなものとして認識するかという問題だ。

白井は「朝鮮半島がすべて共産化したと仮定した場合には、日本の戦後民主主義が生きつづけられたかどうかも疑わしい」という政治史研究者ブルーズ・カミングスの言葉を引きつつ、戦後日本で民主主義が可能だったのは日本が冷戦の最前線ではなかったという地政学的理由によるという。戦後のある時期まで、東アジアの冷戦の最前線は北朝鮮と対峙する韓国、中華人民共和国と対峙する台湾であり、有事のとき介入する米軍の基地が集中する沖縄だった。

この時期、韓国と台湾には軍事独裁政権があり、沖縄は米国の管理下におかれた。逆に言えばこうした抑圧的体制があることが「日本で『デモクラシーごっこ』が成り立つための条件であった」。独立後の日本本土から見ると沖縄の「米軍による占領」は特殊に見えるが、東アジアの「親米諸国一般」という観点からすれば沖縄にこそ一般性があり本土こそ特殊だった。

韓国や台湾、沖縄に比べればゆるい「戦後」体制のなかで、どういうことが起こったか。白井は「敗戦」を「終戦」と呼びかえる欺瞞(それを許される「自由」があった)の上に戦後の枠組みが成り立っていたと考える。「敗戦」を「終戦」と言い換えることで、日本人は戦争に負けたという事実を忘れたがった。「敗戦の帰結としての政治・経済・軍事的な意味での直接的な対米従属構造が永続化される一方で、敗戦そのものを認識において巧みに隠蔽する(=それを否認する)という日本人の大部分の歴史認識・歴史的意識の構造」ができあがった。

敗戦を認めたくないという精神のありようは突き詰めれば米国による対日処理と衝突せざるを得ないが、米国に面と向かって歯向かうことはできない。だから国内やアジアでは敗戦を否認してみせることで、敗北したのではないという自分の「信念」を満足させながら、そのような態度を取る自分たちを容認する米国に対しては「卑屈な臣従」をつづける。その構造を白井は「永続敗戦」と呼んでいる。

白井の言っていることは一見、戦後左翼の言辞に似ている。でも違っているのは、白井が戦後の平和と民主主義を信じていないこと、、また国家や戦争を倫理的に批判する態度を取らないことだろう。

彼はこんな実も蓋もないことを言う。「(米国が帝国主義的に振舞うのは)国家がその本性上含んでいる悪の現れである以上、それのみを道徳的に批判したところでほとんど無意味である」「結局のところ、国家の領土を決する最終審級は暴力である。すなわち、歴史上の直近の暴力(=戦争)の帰趨が、領土的支配の境界線を原則的に規定する」。

そこから白井は尖閣・竹島・北方領土の問題も論じている。領土問題は戦争の後始末であり、敗戦の結果として帝国日本が獲得した海外領土をどこま手放すかという問題だった。だから領土問題を考えるときはポツダム宣言とサンフランシスコ講和条約が基本にならざるを得ない。それ以前の歴史的経緯は、この宣言と条約で解釈しきれない限りで問題となるにすぎない。そうした目で見ていくと、日本の言い分が必ずしも国際的に全面的に理解を得られるものでなく(特に尖閣と北方領土)、中韓露の言い分にもそれなりの理があることも見えてくる。

ときどき荒っぽい言葉遣いがあったり、後半では納得しにくい議論もあるけれど、大本のところは共感できる。白井も言っているようにこの本は格別新しいことを主張しているわけではない。「対内的にも対外的にも戦争責任をきわめて不十分にしか問うていないという戦後日本の問題をあらためて指摘したにすぎない」。「戦後」という時間と空間を考えるとき、それらを根っ子のところで規定している事実、日本は第二次世界大戦に敗北したという歴史から目をそむけることはできない。

「戦後レジームからの脱却」を言う人々の、この間の尖閣や靖国をめぐる対中韓、対米の言動は、「脱却」を叫ぶ当の人々の間に「永続敗戦」という戦後的なねじれがいまだに生きていることを明らかにした。戦後は終わったといわれるけれど、まだまだ戦後は生きている。

刺激的な本だった。


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