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January 24, 2014

『ドラッグ・ウォー 毒戦』 中国大陸ノワール

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Drug War(film review)

『ドラッグ・ウォー 毒戦(原題:毒戦)』は香港ノワールの巨匠ジョニー・トーが香港を離れ中国大陸を舞台にした警察アクションものだ。トーの制作会社・銀河映像と中国資本との合作映画。そのことで、これまでのトーの映画とは別のテイストをもった作品になっている。

テイストの違いのひとつは、大陸で撮影しているために当然のことながら町や風景がちがうこと。香港は狭い土地に人間と建物が密集している街だから、見ていてすぐに香港映画とわかる。路上にはみだした看板が何重にも重なり、たくさんの人が肩をふれるように歩く雑踏。緑が少なく、坂と海があり、豪華な高層マンションとスラムが隣りあう。トーの映画にしても他のノワールにしても、そんな風景のなかで犯罪が起こり、追跡劇が展開される。その密度が独特の熱気を生み出している。

『ドラッグ・ウォー』は津海という都市と粤江という港町(どちらも架空)が舞台で、実際には天津(津海)と珠海(粤江)でロケされているようだ。冒頭、家が散在する郊外風景のなかで麻薬製造工場が爆発し煙を上げている光景がロングショットで示される。あるいは大陸風の並木が立ち並ぶ広い道路でカーチェイスや銃撃がある。そんな、一見のんびりした大陸の風景のなかで派手なドンパチの銃撃戦が繰りひろげられるのが意外にも新鮮。

いまひとつのテイストの違いは、中国との合作映画であることから来る。中国で映画製作に事前検閲など厳しい制約があるのは周知の事実。チェン・カイコーの『さらば、わが愛 覇王別姫』を筆頭に第5世代が花開いた1980年代には文革批判などぎりぎりの政治性をもった映画がつくられたけど、その後、映画に対する統制は強まり、ここ数年はいよいよ強化されている。「憲法に対する破壊・反抗を扇動する映画」は禁じられ、無許可で外国映画祭への出品も許されない。違反すると5年間の映画製作禁止の罰則がある。

当局に届け出ずに撮影されヴェネツィア映画祭に出品されたワン・ビン監督の『無言歌』(傑作!)は反右派闘争時代の収容所と飢餓を扱った映画で、中国では上映されていないし、新作『三姉妹 雲南の子』も無許可のままフランス資本で撮影されている。天安門事件を扱った『天安門、恋人たち』で5年間の製作禁止処分を受けたロウ・イエ監督は国外に出て、新作『パリ、ただよう花』をパリで撮影した。

ジョニー・トーはエンタテインメントに徹しているから、作品に政治性があるわけではない。国家に正面から対立・対抗するような映画ではなく、国が課す制約をするりとすり抜けて面白い映画をつくるタイプ。もっともトーが得意とするノワールは、法に反する行為である犯罪を主題にしている。殊にこの映画は、犯罪のなかでも国が敏感になる麻薬がテーマ。中国資本が入り、大陸での公開を前提としている作品だから、当然ながら当局が課す制約をクリアする必要がある。

そのためには、麻薬犯罪に関わる者は厳しく罰されるという教訓が映画に含まれていなければならない。中国の刑法では麻薬製造は死刑。一方、ノワール映画は犯罪者に華がなければつまらない。悪が生き生きしてこそノワールは輝く。そこをどう両立させるか。

香港出身のテンミン(ルイス・クー)の覚せい剤製造工場が爆発し、傷ついたテンミンは公安警察のジャン警部(スン・ホンレイ)らに捕らえられる。死刑を免れることを条件にテンミンは進行中の取引を続け、警察はそれを監視下において密売ルートを摘発しようとする。架空取引をする過程でテンミンと警部は時に対立し、覚せい剤を吸入することを強いられた警部をテンミンが助け、やがて2人の間に友情に近い感情が流れる。このあたりノワールの定番だけど、やっぱり楽しめる。

(以下、ネタバレです)『ドラッグ・ウォー 毒戦』は最後の1分で、当局の課す条件をすり抜けた。主役のテンミンが死刑になってしまうのだ。しかも、薬物注射による死刑執行をこと細かに描写するおまけつき。最後の1分だけ「麻薬製造は死刑」という法に従い、残りの104分はいつもどおりのジョニー・トーの犯罪映画。好き勝手にやってる。特にスン・ホンレイの警部は架空取引で悪党に扮して怪演。警官が犯罪者のふりをして金儲けを企むなんて設定は、汚職にまみれた現在の中国への皮肉と取れなくもない。トー監督のお遊びと逞しさ、あっぱれ。


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