ご近所のパパママ・ストア
papamama-store in my neighborhood
7年前にニューヨークで暮らしはじめたとき驚いたことのひとつは、コンビニエンス・ストアが少ないことだった。僕が住んでいたのはブルックリンのダウンタウンに近いアパートだったが、近所にはコンビニが一軒もなかった。全国チェーンのコンビニエンス・ストアはアメリカ発祥だから、ニューヨークみたいな大都会ならそこらじゅうにあると思っていたので意外だった。
その代わりたくさんあったのは、デリと呼ばれる個人商店。デリとはデリカテッセンの略だろうけど、ヨーロッパのデリカテッセンのような立派な店構えと品揃えでなく、街角のごく小さな店舗に普段用の食品や酒、煙草なんかが所狭しと並べられている。
こういうデリはパパママ・ストアとも呼ばれる。家族経営で、パパとママがやってる店というわけだ。僕のアパートからいちばん近いデリは、歩いて2分ほどのところにあるアラブ系経営者の店だった。自炊するための食材は歩いて10分ほどのスーパーやマンハッタンの日本食材店で買っていたから、ここへはビールや牛乳を買いによく行った。
デリを経営しているのはたいてい移民で、ヒスパニック、アラブ系、東欧系、インド系、韓国系などの店が多い。アメリカの都市は人種や民族がかたまって住んでいるから、地域のコミュニティが維持されている。パパママ・ストアはそうしたコミュニティに根ざして営業している。たとえ同民族ではなくても、経営者も客も互いに顔なじみの地元商店なのだ。日本で個人商店が少なくなりスーパーやコンビニばかりになったのにはいくつか理由があるだろうけど、かつてあったコミュニティが崩れかけていることも関係していよう。浦和も例外ではない。
でも北浦和駅に近いこの店は、いつも繁盛している。もともと野菜・果物の店だったが、種類は少ないながら魚や豆腐・納豆、冷凍食品、菓子、パンなど普段の食事に必要なものはだいたい置いてある。ここが繁盛しているいちばんの理由は、いい仕入れルートを持っているらしく品が良くてスーパーに比べて値段が安いことだ。例えば魚なら今の季節、生食用のかきとか冷凍タラバガニが置いてある。定番商品のマグロぶつはいつも旨い。野菜も、地元産の不揃いきゅうりなどを安く売っている。どんな品もほかと比べて値段が2割方安い。
経営しているのは30代の兄弟とその家族。兄のほうはうちの娘と小学校の同級生だから、文字通りのパパママ・ストア。こういう商売熱心な店はなくなってほしくない。買い物はできるだけこの店へ行くことにしている。
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