『名探偵ゴッド・アイ』 ノワールなラブコメ
『ゴッド・アイ(原題:盲探)』がコメディだとは思わなかった。しかもラブコメとは。ジョニー・トーの新作という以外の情報がないまま映画館に行ったんだけど、「盲探」という原題からして『マッド・ディテクティブ(原題:神探)』系列のシュールなハードボイルドかと思っていた。ところが映画は始まると、なんかおかしい。
アンディ・ラウが白杖を突いて香港の雑踏を歩いてくる。鼻をくんくんさせながら男を追う。2枚目らしくない仕草。元警官で失明して退職し、盲目の探偵として金を稼いでいるらしい。女性警官のサミー・チェンがそのアンディを追う。ビルの屋上から劇薬を撒こうとした男ともみあいになり薬剤をふりかけられたアンディは、「イケメンが台無しになる」(だったか)。
サミーから個人的に人探しを引きうけ、彼女の自宅に泊まったアンディが朝、尿意を催して起きる。トイレを探して手探りでうろうろしバスルームにたどりつくと、サミーがバスに入っている。アンディはトイレどこ? と身をよじり、裸のサミーもアンディが本当の盲目かどうか疑って身をよじる。ラブコメの定番みたいなシーン。ともかくアンディはよく食べる。伊勢海老のソテーからモツ煮込みまで、やたら食べる場面が出てくる。それが実に旨そうで、しかも食べる音が強調されてる。食べるシーンが深刻になるはずはない。
失明前にダンススタジオで見た女性に一目惚れのアンディはサミーをブスだと思い込んでいて、「ブスと付きあうと笑われるからいやだ」と取り合わない(元相棒の警官は「どうせお前は見えないじゃないか」)。サミーはどんどんアンディに惹かれていく。サミーは澄ましていると楚々とした美女だけど、ずっこけたり、見事なドロップキックを披露したりと体も張る。なかなかのコメディエンヌぶり。
ラブコメだから、最後にめでたしめでたしとなるのは型どおり。だからこれはジョニー・トーらしいディテールの笑いと遊びを楽しむ映画なんでしょうね。トー映画常連のラム・シューも顔を出してどたばたを披露。金槌をふりまわす血染めの殺人シーンや、路上のショット、犯人を捜して行く本土の人里離れた一軒家の風景なんか、トーらしいノワールな雰囲気がいい。
調べてみると、僕がまだジョニー・トーを知らなかった1990年代にアンディとサミー主演で2本ほどラブコメをつくってるんですね。トーの監督ではないけど『インファナル・アフェア』でも夫婦役で出ていた。だから2人は香港映画全盛時代の名コンビなんだ。香港の人気歌手でもあるサミーは一時体調を崩して休養していたらしいから、これは久しぶりに復活した3人の映画(ポスターに10年ぶりとある)。香港の映画ファンは懐かしさに涙したかも。
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