今年見た映画から
今年、それなりに面白く見たのにいろんな事情でブログに書けなかった映画がある。それらの映画について短くメモしておこう。
『イノセント・ガーデン』
韓国のパク・チャヌク監督が故リドリー&トニー・スコット兄弟のプロダクションに招かれハリウッドで撮ったサスペンス。最初脅えていた少女が自らの殺人者としての本能に目覚める変貌を、いかにもパク・チャヌクらしく見せる。冒頭で少女が足裏のマメをつぶすショットから、パク監督らしい肉体への痛覚が全開。もっとも韓国で撮った作品のような過剰さを抑えたせいか、ハリウッドらしいウェルメイドな映画になった。コンビを組む撮影監督チョン・ジョンフンがナッシュビルで撮影した南部の邸宅や風景が美しい。
『42 世界を変えた男』
初の黒人大リーガー、ジャッキー・ロビンソンの伝記映画。ハリウッド屈指の脚本家、ブライアン・ヘルゲランドの監督作品。ノワールやホラーが得意な脚本家にして意外(?)な、ど真ん中のストレート。黒人蔑視のなかで目には目、歯には歯でなく黙ってプレーすることで周囲に認めさせた男の誇りをテーマにした。もっともヘルゲランドの仕事からはいつも鋭い社会批判の目を感ずるから、当然といえば当然か。半世紀以上前のブルックリンの野球場エベッツ・フィールドが見事に再現されている。
『トランス』
強奪した絵画の隠し場所の記憶を失った男が、記憶を取り戻すために仕掛けられる罠。その罠を仕掛けたのは誰なのか。本当の記憶とつくられた記憶、現実と幻想が入り乱れて二転三転。ダニー・ボイル監督らしいスピード感。ノワールなロンドンの街が素敵だった。
『スプリング・ブレイカーズ』
女子大生4人が春休み(スプリング・ブレイク)にフロリダに遊びにいくお話。資金稼ぎにダイナーで覆面強盗し、パーティーでは男とドラッグにまみれ、ギャングの仲間になって遊びまくる。「春休みの現実逃避」から1人脱落し2人脱落し、最後は金髪2人組が覆面でマシンガンを手に殺しまでやる。むろんリアリズムじゃなく映像もグラインドハウスふうお遊びなんだけど、それをわかった上でなお後味がよくない。監督の視線そのものに覚めた目ではなく陶酔が感じられる。映画を倫理的に云々する趣味はないけど、この映画に感情移入し共感する観客がたくさんいるんだろうか。
『許されざる者』
クリント・イーストウッド監督の西部劇の名品を、維新後の北海道に置きかえてリメーク。イーストウッド版は老ガンマン個人の話だったけど、李相日版は渡辺謙の殺しの背後に旧幕軍の新政府への恨み、アイヌの和人への恨みを背負わせた。そのことで物語に奥行きは出たけれど、旧幕軍の武士同士が殺しあったり設定に無理が出る。面白いエンタテインメントだけど納得しがたい部分も残った。
『さよなら渓谷』
吉田修一の原作は読んでいるから、主人公たちの過去、ストーリーのキモになる部分はわかっている。その上で、なお楽しめるかどうか。不幸にならなければ結びつけない男と女の道行きが、奥多摩の夏の風景のなかで物語られる。映画は原作に忠実。真木よう子と大西信満もよかった。ただ見終わって、原作を読んだ後の深淵をのぞいたような感情は訪れなかった。
『藁の盾』
「10億円でこの男を殺してください」という導入部から高速道路、新幹線あたりまでは興奮させるけど、その後、急速に話のスケールが小さくなり、失速してしまう。カンヌのコンペティションに選ばれたので期待したんだけど、ここしばらく、日本の刑事物で面白い映画に当たったためしがない。
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