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December 19, 2013

『ゼロ・グラビティ』 新しい体験

Gravity
Gravity(film review)

『ゼロ・グラビティ(原題:Gravity)』の新しさ、面白さは、それまで味わえなかった感覚を実感できるところにある。

宇宙空間に身を置くとは、どんな身体感覚なのか。無重力。無音。青い地球と漆黒の闇。そういうことは知識として知ってはいても、実際にそこに身を置くとどんな体感が得られるのか。過去に見たどんな映画よりも、この映画の疑似体験はリアルだった。サンドラ・ブロックと一体になって宇宙を彷徨う感覚を味わった。

アルフォンソ・キュアロン監督はNASAや現役の宇宙飛行士に話を聞いて、無重力空間での物体や体の動き、人の体勢などを研究したという。また宇宙船から見た地球の映像をつくるため、地上30キロの成層圏まで気球を上げて地球を撮影したという。そうした材料を基にVFXを駆使してつくりあげた無重力空間での人間の五感。それをつくりあげたのは監督の創造力であり、それに比べると3Dなどチャチな仕掛けに見えてしまう(IMAXでない3Dで観賞)。これ見よがしのVFXや3Dには惹かれないけど、こういう新しい体験をさせてくれるのが新しい技術の本来の使い方だろう。

宇宙ステーション「エクスプローラー」でキャプテンのマット(ジョージ・クルーニー)や宇宙初体験の医師ライアン(サンドラ・ブロック)が船外活動している。ロシアが自国の衛星を破壊し、軌道が交錯するエクスプローラーはその残骸に襲われる。ステーションは破壊され、死者も出る。マットとライアンは船内に戻り、帰還用宇宙船で地球へ戻ろうと試みる……。

話は単純。それがいい。ドンパチはないから、ライアンやマットが水中を泳ぐように動いたり、乗員とステーションを結ぶロープがヘビのようにくねくねと波打ったり、開いたパラシュートのロープに絡まった身体がヨーヨーみたいに振られたり、そんな無重力空間での出来事がたっぷりと描かれる。ヒューストンとの交信にカントリー・ミュージックがまじり、それが途絶えると無音の静寂。これがまたいい。地上と交信しようとすると、どう混線したのかエスキモー語(?)の男の声と犬の鳴き声が小さく聞こえてくる。その音が逆に地球から遠く離れた宇宙の孤独を際立たせる。そこにひとり取り残されたライアンの絶望。

男と女のシーンもちゃんと用意されている。ステーションとロープ一本でつながったライアンの先にまたロープ一本でつながったマットが、これでは2人とも死んでしまうと接続のフックをはずすシーンなんかは、宇宙のラヴシーンといったところ(2人は恋人同士ではないが、マットはライアンに「君は僕に惚れてただろ」)。宇宙服を脱ぐとタンクトップに短パンのサンドラ・ブロックは、この映画のために身体を鍛えたらしいけど、魅力的。

ところで原題は「ゼロ・グラビティ(無重力)」ではなく「グラビティ(重力)」である。この映画で重力のあるシーンはラスト数分のみ。帰還したライアンが海中から浮かび上がり、岸に泳ぎつく。浜にうつぶせたライアンは、手で砂をいとおしむようにゆっくりと掬ってみせる。かつて娘を失い、宇宙でマットを失ったライアンだが、やがて地球の重力に抗してすっくと立ち上がる。カメラはそんなライアンのたくましい脚を低いアングルから映す。

万有引力とは
ひき合う孤独の力である(谷川俊太郎「二十億光年の孤独」)

このシーンはいわばキュアロン監督の人間賛歌。だからこそ監督は「重力」というタイトルを選んだのだろう。でも僕にはヒューマンで重々しい「重力」のテーマより、新しい体験を味わえた「無重力」のほうが新鮮だった。この「無重力」感覚は十数年前にキュアロン監督が撮った佳作『天国の口、終わりの楽園。』のあてどない青春の空無感にも一脈通ずるものがあったと感じる。

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