『マラヴィータ』 グッドフェローズ番外コメディ編
『マラヴィータ(原題:Malavita)』はマーティン・スコセッシ(製作)、リュック・ベッソン(脚本・監督)、ロバート・デ・ニーロ(主演)3人のお遊び映画。スコセッシの『グッドフェローズ』がネタになったり、デ・ニーロの役に彼が過去に演じたマフィアやギャングのキャラクターが重なったり、彼らの映画に親しんだ人なら文句なく楽しい。
フレッド(ロバート・デ・ニーロ)は元マフィアのボス。ファミリーの犯罪を法廷で証言し、FBIの証人保護プログラムを受けて名前を変えフランスで家族と暮らしている。裏切られた大ボスはフレッド一家を探し出し殺害することを獄中から命じ、殺し屋を差し向ける。南仏の隠れ家をつきとめられたフレッド一家は、FBI捜査官スタンスフィールド(トミー・リー・ジョーンズ)の指示で名前を変えノルマンディーの田舎町へ移る。
と書けばサスペンスフルな犯罪映画みたいだけど、それにコミカルなタッチが加わる。フレッドはすぐ切れる暴力男で、肉屋がまずい肉を売ったというだけで殺してしまう。妻のマギー(ミシェル・ファイファー)もスーパーで陰口を叩かれると、商品のガスボンベを盗んで点火し、店を爆破する(フレッド曰く「君が移る先々でスーパーが爆発するのはどうしたわけだ」)。娘のベル(ディアナ・アグロン)は、転校した高校でちょっかいを出した男子生徒をたたきのめし股間に蹴りを入れる。息子のウォレン(ジョン・デォレオ)は頭脳派で、生徒の勢力関係をすばやく掴んで巧みに立ち回る。
作家を装う善良そうなフレッドがいきなり暴力的になったり(現役マフィアの回想シーンでは昔のような凄みを見せる)、美女のマギーが何食わぬ顔で爆発をしかけたり、デ・ニーロやファイファーが過去の映画で演じた役柄を踏襲したり逆手に取ったりして笑わせる。
もうひとつのコミカルな要素はアメリカ人とフランス人の互いの偏見とカルチャー・ギャップ。田舎のフランス人はアメリカから来たよそ者一家に「アメリカ人は教養ないし味覚音痴」と聞こえよがしの陰口をきく。一方、フレッド一家は住民を招待するパーティーを準備しながら「ほんとはみんなハンバーガーやバーベキュー食ってコーラ飲みたいんだよ」なんて言ってる。フランスvsアメリカの定番のジョークだけど。そういえば昔、『フレンチ・コネクション』でジーン・ハックマンのポパイ刑事が「ハンバーガー食いたい」って叫びながらパリの町を走ってたっけ。
フレッドが住民からアメリカ映画についての講演を頼まれると、手違いで上映されるのがスコセッシ監督、デ・ニーロ主演の『グッドフェローズ』。ブルックリンのイタリア系少年3人がマフィアにあこがれ、その一員になっていくお話だった。『マラヴィータ』のフレッドもブルックリンのイタリア系マフィアという設定。フレッドのデ・ニーロが『グッドフェローズ』に出てくる少年について語り始めるのだが、それはつまり自分たちを語っていることになる。
確か『グッドフェローズ』では3人が仲間割れし、家庭を持った1人が相棒(デ・ニーロ)を売って証人保護プログラムを受けるという結末だったはず。だから『マラヴィータ』でデ・ニーロの命を狙う獄中の大ボスは『グッドフェローズ』ならデ・ニーロの役どころ。この映画、『グッドフェローズ番外コメディー編』みたいなお話なのだ。
『グッドフェローズ』は実際にブルックリンのダンボ地区でロケされた。ブルックリン橋とマンハッタン橋の間に広がる元工場・倉庫地帯。『グッドフェローズ』の時代には寂れていたが、その後、工場や倉庫の建物が高級コンドミニアムとして再開発され、今ではおしゃれな場所になっている。『マラヴィータ』もブルックリンの特徴的な高架下風景が登場するし、ダンボでも撮影されたらしくマンハッタン橋がちらと見えるショットがある。スコセッシ、デ・ニーロ、ベッソンが楽しみながら映画をつくっている様が目に浮かぶ。そのお遊びを楽しむ映画でした。
ごひいきミシェル・ファイファーが相変わらずきれいなのも嬉しい。
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