« 旧万世橋駅へ | Main | 3つの写真展 »

November 08, 2013

『コールド・ウォー 香港警察 二つの正義』 クールな香港

Photo
Cold War(film review)

いやー、面白かった。でも見てから数日たって、その印象が急速に薄れているような気もする。これって、どういうことなんだろう。

『コールド・ウォー 香港警察 二つの正義(原題:寒戦)』は冒頭から息もつかせず突っ走る。香港の繁華街モンコックで爆発事件が起きる。同時に一台の警察車両が行方不明になり、警官が拉致される。警察内部に犯人に通じた者がいるらしい。海外出張で長官不在の香港警察で、二人の副長官のもと緊急会議が開かれる。

指揮権を持つ行動班副長官のリー(レオン・カーファイ)は非常事態を宣言する。行方不明になった警官のなかにはリーの息子(エディ・ボン)がいる。保安管理班の副長官ラウ(アーロン・クォック)は、リーの公私混同で強引な指揮を批判する。

リー対ラウの対立が映画をドライブする。リーは叩き上げの現場派。ラウは冷静な管理畑。日本の警察ものなら現場と官僚的な本部が対立して、現場派に肩入れするよう描かれるのが常套だけど、そうはならない。暴走するリーに対抗してラウは指揮権を奪い、身代金を持って単身街に出る。さらに日本でいえば地検特捜部に当たる汚職摘発機関ICACが絡んでくる。罠によって奪われた身代金を騙し取ったのはラウだと密告があり、ラウはICACの取り調べを受ける。

爆弾と拉致の犯人探し、そしてリーとラウとICAC三つどもえの暗闘が絡みあってストーリーが展開する。局面が変わるごとに誰が犯人で誰が密告者なのか、登場人物がみな怪しく見えてくる脚本がうまい。街や海を見下ろす高層ビルのガラス張り会議室といった屋内と、町中やフェリーなどの屋外を行き来する構成も巧み。このあたり、身代金を高速道路から落とす似たようなシーンもあるし、黒沢明の『天国と地獄』を参照してるかも。

映像も目を瞠る。従来の香港ノワールは『インファナル・アフェア』3部作にしろジョニー・トーにしろ香港雑踏のノワールな映像が魅力だけど、この映画では高層ビルやヘリによる上空からのショットなどクールな映像が印象に残る。その極めつけが高層ビル屋上での花火爆弾の炸裂シーン。その美しさに参りました。

そんなふうに脚本の巧みさ、映像の美しさ、レオン・カーファイとアーロン・クォックの対決(アンディ・ラウも特別出演)に興奮したんだけど、印象が薄れるのも早かった。時間がたつほどに印象の深まる映画と、見たときは面白くても記憶に残らない映画があるけど、『コールド・ウォー』はどちらかといえば後者かな。

ここで対比すべきなのは、やはり『インファナル・アフェア』だろう。『インファナル・アフェア』は見たときも興奮したけど、いつまでも記憶に残る映画だった。それはトニー・レオンとアンディ・ラウの2人の人間がちゃんと描かれていたからだ。警察組織に潜入したギャングと、ギャング組織に潜入した警察官、2人の苦悩が(第2部では若き日まで遡って)深いからこそ、2人の対決がぞくぞくするほど身に迫ってきた。

『コールド・ウォー』も主役2人の背景が一応描かれてはいる。アーロン・クォックは広報部責任者のチャーリー・ヤンと元恋人同士という設定。レオン・カーファイは息子のエディ・ボンと対決することになる。でもそれはストーリーを面白くするためのもので、それ以上ではないと感じた。最後にクォックとカーファイ、2大スターの顔を立たせるためのシーンが用意されているのもやや興ざめ。

とはいえ、近年の香港ノワール(と呼んでいいか疑問だが)のなかで久々に面白かったのは確か。ラストシーンで第2作が予告されて、これは楽しみだ。ないものねだりはせず、息もつかせぬスピードの続編を期待しよう。

チャウ・シンチーらの助監督を務めたサニー・ルクと、美術監督だったリョン・ロクマンの共同脚本・監督第一作。質量とも不振といわれる香港映画、がんばってほしい。

|

« 旧万世橋駅へ | Main | 3つの写真展 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 『コールド・ウォー 香港警察 二つの正義』 クールな香港:

» 『コールド・ウォー 香港警察 二つの正義』 [ラムの大通り]
(英題:Cold War) ----『コールド・ウォー 香港警察 二つの正義』。 ニャんだか説明的なタイトル。 でもこれって、 香港電影金像奨を9部門も受賞しているんだよね。 「うん。 宣伝サイドも“『インファナル・アフェア』以来の傑作”と謳っている」 ----香港映画でポリス...... [Read More]

Tracked on November 09, 2013 02:10 PM

« 旧万世橋駅へ | Main | 3つの写真展 »