『コールド・ウォー 香港警察 二つの正義』 クールな香港
いやー、面白かった。でも見てから数日たって、その印象が急速に薄れているような気もする。これって、どういうことなんだろう。
『コールド・ウォー 香港警察 二つの正義(原題:寒戦)』は冒頭から息もつかせず突っ走る。香港の繁華街モンコックで爆発事件が起きる。同時に一台の警察車両が行方不明になり、警官が拉致される。警察内部に犯人に通じた者がいるらしい。海外出張で長官不在の香港警察で、二人の副長官のもと緊急会議が開かれる。
指揮権を持つ行動班副長官のリー(レオン・カーファイ)は非常事態を宣言する。行方不明になった警官のなかにはリーの息子(エディ・ボン)がいる。保安管理班の副長官ラウ(アーロン・クォック)は、リーの公私混同で強引な指揮を批判する。
リー対ラウの対立が映画をドライブする。リーは叩き上げの現場派。ラウは冷静な管理畑。日本の警察ものなら現場と官僚的な本部が対立して、現場派に肩入れするよう描かれるのが常套だけど、そうはならない。暴走するリーに対抗してラウは指揮権を奪い、身代金を持って単身街に出る。さらに日本でいえば地検特捜部に当たる汚職摘発機関ICACが絡んでくる。罠によって奪われた身代金を騙し取ったのはラウだと密告があり、ラウはICACの取り調べを受ける。
爆弾と拉致の犯人探し、そしてリーとラウとICAC三つどもえの暗闘が絡みあってストーリーが展開する。局面が変わるごとに誰が犯人で誰が密告者なのか、登場人物がみな怪しく見えてくる脚本がうまい。街や海を見下ろす高層ビルのガラス張り会議室といった屋内と、町中やフェリーなどの屋外を行き来する構成も巧み。このあたり、身代金を高速道路から落とす似たようなシーンもあるし、黒沢明の『天国と地獄』を参照してるかも。
映像も目を瞠る。従来の香港ノワールは『インファナル・アフェア』3部作にしろジョニー・トーにしろ香港雑踏のノワールな映像が魅力だけど、この映画では高層ビルやヘリによる上空からのショットなどクールな映像が印象に残る。その極めつけが高層ビル屋上での花火爆弾の炸裂シーン。その美しさに参りました。
そんなふうに脚本の巧みさ、映像の美しさ、レオン・カーファイとアーロン・クォックの対決(アンディ・ラウも特別出演)に興奮したんだけど、印象が薄れるのも早かった。時間がたつほどに印象の深まる映画と、見たときは面白くても記憶に残らない映画があるけど、『コールド・ウォー』はどちらかといえば後者かな。
ここで対比すべきなのは、やはり『インファナル・アフェア』だろう。『インファナル・アフェア』は見たときも興奮したけど、いつまでも記憶に残る映画だった。それはトニー・レオンとアンディ・ラウの2人の人間がちゃんと描かれていたからだ。警察組織に潜入したギャングと、ギャング組織に潜入した警察官、2人の苦悩が(第2部では若き日まで遡って)深いからこそ、2人の対決がぞくぞくするほど身に迫ってきた。
『コールド・ウォー』も主役2人の背景が一応描かれてはいる。アーロン・クォックは広報部責任者のチャーリー・ヤンと元恋人同士という設定。レオン・カーファイは息子のエディ・ボンと対決することになる。でもそれはストーリーを面白くするためのもので、それ以上ではないと感じた。最後にクォックとカーファイ、2大スターの顔を立たせるためのシーンが用意されているのもやや興ざめ。
とはいえ、近年の香港ノワール(と呼んでいいか疑問だが)のなかで久々に面白かったのは確か。ラストシーンで第2作が予告されて、これは楽しみだ。ないものねだりはせず、息もつかせぬスピードの続編を期待しよう。
チャウ・シンチーらの助監督を務めたサニー・ルクと、美術監督だったリョン・ロクマンの共同脚本・監督第一作。質量とも不振といわれる香港映画、がんばってほしい。
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