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October 20, 2013

『そして父になる』 微妙に動くカメラ

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Like Father, Like Son(film review)

映画監督が自分ひとりで脚本を書き演出もやった日本映画を立てつづけに3本見た。『地獄でなぜ悪い』(園子温監督)、『許されざる者』(李相日監督)、『そして父になる』(是枝裕和監督)。『地獄でなぜ悪い』と『許されざる者』は期待して見にいき、面白くないわけじゃなかったけど、それぞれに不満が残った。それがどこから来ているのかと考え、2本とも脚本に欠陥があるんじゃないか、というのがとりあえずの結論だった。

『地獄でなぜ悪い』は上映時間が長すぎ(126分)、準主役級の星野源はじめ登場人物と人間関係をもっと整理するほうがコメディに大切なスピード感が出たのではないか。『許されざる者』は、予想されたことだけどアメリカの西部劇を日本の物語に翻案したための無理がある。渡辺謙の殺人の動機が金だけでなくアイヌ民族の憤怒も背負い、敗者の怨念に貫かれながら主人公と同じ敗者である元幕軍の農民を殺すあたり、見ていて納得できなかった。

今は脚本と演出をひとりでやる監督が多いけど、監督の思いやこだわりを冷静に見る第三者の目はやはり必要だ。小津だって黒沢だって、ひとりで脚本を書くことはしなかった。いま日本映画に求められるのは、いい脚本家じゃないか。……なんてことを考えながら『そして父になる』を見て、うなりましたね。ここでは脚本と演出と、もうひとつ是枝が自ら手がけた編集が渾然一体となって素晴らしい出来栄えの映画になってる。

実際にあった赤ん坊取り違え事件がベース。東京に住むエリート会社員の野々宮良多(福山雅治)とみどり(尾野真千子)。地方都市に住む電気屋さんの斎木雄大(リリー・フランキー)とゆかり(真木よう子)。映画の冒頭、2組の夫婦の6歳になる息子が産院で取り違えられていたことが発覚する。

心優しい是枝監督のことだから最後にはほっとさせてくれるだろうと思いつつ、でも2組の男と女に何が起こり、どんな選択を強いられるのか。広義のサスペンス映画といってもいいかも。そんな2組の親子をハリウッド映画なら次々に試練が襲うに違いないけど(ドリームワークスのリメークはどうなるか)、是枝監督はそういうことをしない。

取り違えがわかったとき、良多はふと「やっぱりそうか」とつぶやく。「やっぱり」とはどういうことか。妻のみどりには、その言葉がトゲのように心に刺さる。そんな日常の小さな出来事を積み重ねて、さざ波のように家族に不安と動揺が広がってゆく。良多は大企業でチームリーダーを任される男らしく積極的で、今まで息子として育ててきた慶多(二宮慶多)は手元に置いたまま、雄大の家で育った琉晴(黄升炫)も引き取ると提案したりする。

あえて類型化するなら、良多はこの国の高度成長を引っぱり、今また再びの成長を夢見る男であり、雄大は過疎化する地方で半ば自覚的にそのシステムから降り、なんとかしのいで生きてきた男である。週末に子供を互いの家に泊まりに行かせる交流をつづけながら、仕事で多忙な良多は雄大からこう言われてしまう。「俺はこの間、君よりもたくさんの時間を慶多と過ごしてきたよ」。良多の家に引き取られた琉晴が家出して育て親の雄大の家に戻ってしまったときも、逆に雄大から「うちが2人引き取ってもいいんだよ」と言われてしまう。

良多は別に悪い父であるわけではない。子供の自主性を重んじ、いい学校に行ってほしいとも願う、この国の普通の父親像だろう。お金に余裕があり、いい環境を準備して……、でもそれは仕事と同じくコスト・パフォーマンスを最大にする子育てかもしれない。それに対して雄大は、子供と接する時間のゆるやかな流れそれ自体を楽しんでいるように見える。映画の最後近く、良多は子供と接するのにいちばん大切な「時間」の意味を知る。そこでようやく、見る者は『そして父になる』というタイトルの意味が分かってくる。

福山雅治と尾野真千子、リリー・フランキーと真木よう子が、対照的な家庭の味を実によく出してるな。是枝監督の映画はいつもそうだけど、子供たちも実に自然。

同時にうなったのが、カメラ(瀧本幹也)と編集。会話の場面では、人を捉えるカメラは固定され動かない。会話が終わってストーリーが動くとき、カメラも時に微妙に、時に車とともに動いている。特に小さな動き、カメラ自体がかすかに移動していたり、固定されていてもかすかにズーミングされていたり、注意して見ないと分からないような動きが採用されている。

例えば手持ちカメラを動かすと臨場感や不安が強調されるけれど、そうではなくかすかに動いているカメラ。それは、この映画が波乱万丈の出来事で物語を語るのでなく、父親や母親、子供たちの微妙な心の動きにフォーカスを合わせているのに対応している。固定されたカメラと微妙に動くカメラの組み合わせが、この映画のゆったりと繊細なリズムをつくっている。だからラストシーン、雄大が営む電気屋の店舗からカメラが引いて地方都市の姿を映してゆく移動撮影が心に染みる。


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Comments

 この記事を読んで、 同じ一本の映画を見ながら、これ程見る深さが違うものだと改めて感心しました。さすがですね。(1回しかご覧になっていないんでしょう?)
 この映画、相変わらずの樹木希林のオーバーな演技以外(08年の是枝作品『歩いても歩いても』の演技は良かった。)ほぼ満足しました。
 編集も是枝監督がやっているんですよね。先日、Eテレの『達人達』という番組で、姜尚中との対話が放映されました。(これは面白い番組でした。)彼の編集作業をする仕事場が出てきましたが、パソコンが4、5台置かれただけの、ありふれたマンションの一室でした。

Posted by: TO | October 21, 2013 at 11:15 AM

映画はいつも1回しか見ません(そんなにお金がないですから)。そのかわり、引っかかったところ、印象に残ったセリフをできるだけ早くメモするようにしてます。

今はデジタル化と機器の発達で、編集など撮影後のポスト・プロダクションがずいぶん楽になったみたいです。番組は見逃しました。是枝監督の編集の様子、見てみたかったですね。

Posted by: | October 21, 2013 at 04:53 PM

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