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September 20, 2013

『恋の渦』 豹柄大好き

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Koi no uzu(film review)

この映画、エグいけど面白い。好みではないけど、思わず引き込まれる辛らつなコメディ。僕は邦画をそんなに見てないけど、『恋の渦』には今の日本映画とは異質ななにかがありそうな気もする。『モテキ』の大根仁監督がわずか4日でつくったインディペンデント映画だ。

登場人物は20代の男と女9人で、みんな渋谷センター街を歩いていそうなファッション。男は風俗系アルバイトとか、フリーター。女はショップ店員や風俗嬢。男も女も豹柄の服を好み、部屋にも豹柄が目立つ。豹柄の服が吊るしてあったり、ベッドカバーが豹柄だったりし、その上で豹柄の男と女が絡みあう。

コウジ(新倉健太)とトモコ(若井尚子)が同棲する部屋で男5人女4人の合コンが開かれる。恋人のいないナオキに、ユウコを紹介しようという名目。ところが現れたユウコがケバい化粧の女の子で……(見終わると、この子がいちばん可愛く感じられる)。この合コンをきっかけに、別れ話がもちあがり、新しいカップルが生まれ、さらには浮気があったり、若いオスとメスが群れて恋とセックスに振り回される。

9人の会話には打算と嘘と、あけすけな本音が入り混じる(原作・脚本は劇作家の三浦大輔)。男と女、あるいは1人の女をめぐる2人の男。若いころを振りかえれば誰にも覚えがあって、ぎゃっと叫びたくなる言葉であり、行動であるだろう。若い観客なら、オレ(私)はこんなゲスじゃないと思いつつ、なにがしか現在の自分を重ねてしまうに違いない。これってオレ(私)のことじゃん、と。近頃の若いもんにただ辛らつなだけでなく、誰にも覚えがある地点まで突きぬけているからこそ、見ていて笑いつつ痛さや恥ずかしさに打たれる。

『恋の渦』は、山本政志監督が主宰する映画実践塾の企画のひとつとして、第一線の監督を招き生徒がスタッフ、キャストとして動きながらつくった作品。それが劇場公開されヒット作となった。

監督の大根仁はテレビ出身。テレビといってもゴールデン・タイムでなく深夜ドラマをつくってきたようだから、誰にも楽しめるテレビの作法と深夜枠の冒険精神を併せもっているんじゃないかな。テレビやプロモーション・ビデオ出身という背景が、今の邦画の主流とは異質のものをもたらしたのかもしれない。といっても、僕が見ている邦画はミニシアターのインディペンデント系の映画が多いけど。

近ごろのインディペンデント系出身の監督のスタイルは、カメラについていえばアップより引きの画面、移動よりフィックス、斜めの画角ではなく正面を好み、短いカットをつなぐのでなく長回しを好む。だから映画から受ける感触は、対象から距離をもってクール。『恋の渦』はそこがずいぶん違う。長回しはしないし、アップも多用する。それだけ登場人物が皮膚感覚として近く感じられる(共感は一切しないけど)。

4つの部屋を舞台にした密室劇であることも(壁にはAKB48や壇蜜のポスター)、男と女のどうしようもないエネルギーが閉じ込められ渦巻いてる感触につながる。笑いも、インディペンデント系のゆる~い笑いやユーモアでなく、失笑や爆笑。

映画はいろんなスタイルがあってこそ面白い。『恋の渦』のこてこての濃い味は貴重だ。好みじゃないなあ、などと言いつつ、大根監督の映画を次も見にいくことになりそうだ。


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