田附勝「kuragari」展
Tatsuki Masaru photo exhibition
午後の光がまぶしい街路から照明のない会場へ入ると、目が慣れるまでのちょっとの間、本当の暗がりに入ったように思った。上の写真右手の壁の奥にもうひとつ空間があって、そっちはもっと暗い。
暗がりのなかに、周囲を黒い闇に囲まれ真ん中だけが円く照らされた写真が並んでいる。映っているのは夜の森。どの写真も、鹿がびっくりしたように撮影者を見つめている。心がざわざわする。夜の森を歩いていて、いきなり生き物に出会う。そのとき撮影者が感じたろう驚きと恐怖と喜びの感情が、見る者にも再現される。そんな展示。
田附勝はLED照明を片手に、ライカを片手に夜の森に入っていったそうだ。人間と出会うと鹿は一瞬静止する。そこをLEDの光でシャッターを押す。場所は岩手県釜石。『東北』で木村伊兵衛賞を受賞した田附が、東北とさらに深く関わっていくことを鮮明にした写真展だ。
田附の東北は、海や水田ではなく山。東北は遥かな狩猟採集の時代、信州とともに人口密度が高かった。森が豊かだったからだろう。写真集『東北』でも狩猟や、それにまつわる祭の写真が印象的だった。
展示を見ながら連想したのは、福島の森。汚染地域では人間が撤退し、飼育されていた牛や豚、犬猫が野生に帰った。イノブタが繁殖したり、人間のテリトリーが動物のテリトリーに取って代わられたり、いろんなことが起きている。そんな福島の森や動物と、これからどうつきあっていったらいいのだろう。(六本木・ギャラリー SIDE 2、~9月13日)
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