原芳市「常世の虫」展
Hara Yoshiichi photo exhibition
会場の入口にこう書かれていた。「人は死んで虫に化身する」。展示されているのはみなモノクロームで、蛍光灯に吸い寄せられた蛾、網戸にとまるカナブン、路上の蝉の死骸といった生活のなかで見かける虫たちと、人や町の何気ない光景。これらの写真に冒頭の言葉を重ねてみると、これは虫に化身した彼岸の死者たちがこの世に戻ってきて見た風景ということになるのか。
だからかどうか、これらの写真には死に親しい空気が流れている、と感じる。でも、それだけではなさそうだ。人はみな死にゆく存在だけれど、だからこそこの世はいとおしい。野原でバッタを追う少年も、むきだしの腰にお灸をすえる女性も、下半身に揚羽蝶の刺青を入れた女性にも、病院のベッドに座るおばあさんからも、悲しみは感じられない。生きてあることをひっそりと寿いでいる。それが写真家の視線なんだろう。(~8月13日、銀座ニコンサロン)
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