『欲望のバージニア』 30年代アメリカの闇
『欲望のバージニア(原題:Lawless)』の舞台になっているのは1931年のバージニア州フランクリン郡。31年といえば禁酒法の時代で、その時代を描いた代表的な映画といえば、シカゴのギャング、アル・カポネとエリオット・ネスの死闘を描いた『アンタッチャブル』を思いだす。一方、1930年前後といえば大恐慌のさなかでもあり、その時代を素材にした映画といえば、恐慌と大砂嵐で故郷を捨てた農民がカリフォルニアをめざす『怒りの葡萄』が思い浮かぶ。
この映画には、密造酒を売りさばくギャングが出てくるし、シカゴから流れてくるダンサーも出てくる。町を襲う大砂嵐と、西をめざすのだろう街道にたたずむ移動中の人々のショットも挟まれる。『欲望のバージニア』は『アンタッチャブル』と『怒りの葡萄』をつなぐ、この時代のもうひとつの物語だ。主役はバージニアで密造酒を製造した伝説的な3兄弟。兄弟の孫が作家となり、祖父と兄弟たちを描いた小説が原作になっている。
ハワード(ジェイソン・クラーク)、フォレスト(トム・ハーディ)、ジャック(シャイア・ラブーフ)のボンデュラント兄弟は、フランクリン郡の山中で密造ウイスキーを製造している。新任の取締官レイクス(ガイ・ピアース)が密造を見逃す代償に分け前を求め、仲間の業者はそれを飲むのだが、次兄フォレストをリーダーとするボンデュラント兄弟だけは拒否する。3兄弟とレイクスの「戦争」が始まる。
やられたらやりかえす不屈の信念を通すフォレスト、酒好きで粗暴な長兄ハワード、ひ弱だが頭脳派で野心もある末弟ジャックという3人が、それぞれアメリカ人の典型的人物像を背負ってキャラ立ちしている。なかでも次兄フォレストを演ずるトム・ハーディの男の色気は、男の僕から見ても惚れ惚れするほど。
でもフォレストは女にはうぶで、シカゴから流れてきて兄弟の酒場で働くマギー(ジェシカ・チャスティン)が心を寄せているのに、行動に出ない。マギーが深夜、服を脱いでフォレストの部屋へ行き、「女をあまり待たせないで」と言うあたりの闇の艶っぽさが素敵だ。
一方、ジャックは福音派(バージニアは米国バイブル・ベルトの東端)の牧師に隠れて彼の娘バーサ(ミア・ワシコウスカ)を口説く。ギャングのフロイド(ゲイリー・オールドマン)と取引して金を稼いだジャックが最新型フォードV8ロードスターを手に入れ、バーサをドライブに誘って森のなかで黄色いドレスをプレゼントするあたり青春映画の味わい。ジャックの仲間で脚の悪いクリケット(デイン・デハーン)は優秀な技師。この美少年が殺されて、それまでためらいがちだったジャックが復讐に立ち上がるのが、定石とはいえ物語のキーになっている。
秋には全山が紅葉するバージニアの美しい自然と、そのなかで繰り広げられる暴力の対比が見事だ。フォレストが取締官レイクスの手下に襲われ喉を掻き切られるシーン、その復讐に兄弟が犯人を襲い局部を切り取って壜詰めにしレイクスに届けるあたりの血みどろの描写はすさまじい。
美しい自然と血みどろの背後に流れるのがカントリー調の音楽。音楽(脚本も)はニック・ケイヴで、だから当時の正調カントリーでなく、ブルースやゴスペル、それにパンクがかった現代的カントリーが効果的に使われている。
監督はオーストラリア出身のジョン・ヒルコート。自然風景の美しさとノワールな画面が溶けあったアクション映画に仕立てられているのが憎い。役者もみんないいし。前作『ザ・ロード』はコーマック・マッカーシー原作で見たかったけど見逃した。機会があれば見てみよう。
Comments
雄さん、こんにちは。残暑お見舞い申し上げます。
この映画好きです。トム・ハーディにやられました。
男性から見ても素敵とは、うれしい(笑)。
バージニアはバイブル・ベルトの南端なのですね、納得です!
Posted by: 真紅 | August 08, 2013 09:32 PM
トム・ハーディは『インセプション』『ダークナイト・ライジング』『裏切りのサーカス』と面白い映画に立てつづけに出ていて、センスを感じさせますね。
信者の服装が独特だったので、どの宗派かと思って調べたらwikipediaに福音派とありました。
いや、暑いですね。これから2週間もつづくとか。夏バテなどされませんよう。
Posted by: 雄 | August 08, 2013 10:26 PM