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May 01, 2013

『孤独な天使たち』 鉄格子の窓

Io_e_te
Io e te(film review)

優れた映画監督がどんなふうに歳を取り、成熟していくのかには、いろんなタイプがあると思う。いちばん多いのは若い頃の体力気力充実した作品をピークに徐々に下降し、ゆるーい映画になっていくパターン。でも反対に歳を取るほどにすごい映画をつくるようになったクリント・イーストウッドみたいな例もある。あるいは、若い頃の物語的面白さを犠牲にしてまで自分のスタイルを極北まで突き詰めようとするホウ・シャオシェンのような監督もいる。監督デビューして50年になるベルナルド・ベルトルッチの場合、まるで20代の監督がつくったような若々しい映画に立ち戻っている。

『孤独な天使たち(原題:Io e te)』は、ベルトルッチの未公開処女作が50年ぶりに公開されたのかと錯覚するような瑞々しい映画だった。

あのベルトルッチが、ですよ。もともとベルトルッチの映画は左翼的なメッセージとともに、『ラストタンゴ・イン・パリ』や『ラスト・エンペラー』『シェルラリング・スカイ』のように華麗で耽美的な映像で見る者を魅了した。9年前の前作『ドリーマーズ』はゴダールはじめいろんな監督のスタイルやシーンを引用した、技巧の限りを尽した映画だった。だからこそ、そのあまりの変わりようにびっくりする。そこには、『ドリーマーズ』のあと重い病気を患って引退を考え、しかし車椅子での映画作りを決意したという体験が横たわっているのだろう。

舞台はイタリアの都市。14歳のロレンツォ(ヤコポ・オルモ・アンティノーリ)は学校のスキー旅行をさぼって自宅アパートの地下室に隠れ、1週間、音楽と本に浸る秘密の生活を送ろうとしている。ところがその地下室こ、ロレンツォの異母姉オリヴィア(テア・ファルコ)が入りこんでくる。オリヴィアはドラッグ中毒になった新進写真家で、自棄的な生活を送っていたがドラッグを抜いて再出発しようとしている。

独りきりの静かな地下室生活を夢見ていたロレンツォは、わがままで恋人(?)を地下室に連れ込むオリヴィアに腹を立てる。でもオリヴィアの禁断症状に耐える姿を見たり、彼女の命ずることを聞くうちに、2人は徐々に心を通わせるようになる。映画の大部分は狭い地下室の密室空間で撮影されている。照明に工夫を凝らして光と闇をつくりだし、狭い空間をさまざまに変貌させてみせる。でもその見事な技は、かつての華麗な技巧とは違うものに見える。

地下室には道路に面して窓があり、鉄格子がはめられている。地下室のなかから窓を通して外を見るショットと、逆に外の道路から地面すれすれの鉄格子の窓を見るショットが何度も繰り返される。部屋から窓の外を見ると人間の足が大きく見え、また人間を仰角でながめることになる。それは車椅子で日々を送るベルトルッチの視覚なのかもしれない。また暗い闇に浮かぶ鉄格子の窓は、病を体験したベルトルッチが見た心の風景のようにも見える。

その端正な映像は、かつてのベルトルッチの華麗な映像とは別人のようだ。鉄格子の窓の内外の風景を通じて、ロレンツォは成長し、オリヴィアは再生に踏み出す。それは病を克服したベルトルッチが手にした希望でもあるようにも見えるの。

にきび面の少年ヤコポ・オルモ・アンティノーリが初々しく、デヴィッド・ボウイをはじめとする音楽もいいな。ロレンツォが読んでいた本は何だったんだろう。

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