ベニー・ゴルソンを聞く
小柄なベニー・ゴルソンがテナー・サキソフォンを胸に大事そうにかかえてステージに上がり最初の音を出したとき、ああ、ゴルソンの音だ、と胸がいっぱいになった。柔らかで、スモーキーな音。5月の気持ちよい風が頬をなでる都会の夜、ダウンタウンの路上で聞こえてくる音、とでも言ったらいいのか。ざらっとして温かいゴルソンの音色はワン・アンド・オンリー。ファンならすぐ聞きわけられる。
6年前ニューヨークに滞在したとき、ぜひ聞きたかったミュージシャンのひとりだったけど機会がなかった。最初で最後になるかもしれないと思い、この日を楽しみにしていた(表参道・BLUE NOTE、5月15日)。今年84歳。自分のソロが終わると用意された椅子に座って休んでいたけど、その間もサイドメンへの笑顔を絶やさず、サックスを吹きはじめれば力感あふれる。
ベニー・ゴルソンでいちばん有名なのは、テレビCMに使われたこともある「ファイブ・スポット・アフター・ダーク」だろうな。まったりしたカーティス・フラーのトロンボーンにゴルソンのかすれるサックスを重ねて、なんともブルージーな演奏だった。「アフター・ダーク」はゴルソンの手になる曲だけど、彼はプレイヤーと同時に作曲家として(さらには編曲者としても)一流。今もスタンダードとして演奏されるたくさんの名曲がある。
今夜はそのなかから極めつきの2曲、「ウィスパー・ノット」と「アイ・リメンバー・クリフォード」を。「アイ・リメンバー」は26歳で事故死した友人のトランペッター、クリフォード・ブラウンを悼んだバラード。僕はMJQの演奏がいちばん耳になじんでるけど、ゴルソンひとりで入ったイントロからテーマの切々とした演奏に思わず涙した。
バックはマイク・ルドン(p)、バスター・ウィリアムズ(b)、カール・アレン(ds)。はじめて聞いたマイクのピアノが素晴らしい。ビル・エバンスとマッコイ・タイナーをかけあわせたようなピアノが、グループの音を50年代でなく今のものにしている。ゴルソン抜きのトリオで1曲だけ、「アイ・ディドン・ノウ・ホワット・タイム・イット・ワズ」を演奏。ほかの曲がスロー・バラードかミディアム・テンポだったので、アップテンポの演奏ががらっと雰囲気を変えた。
別に新しいことをやってるわけじゃない。スタンダードや自分の名曲を、ハードバップ時代と同じスタイルでやっているだけ。でもゴルソンの音色、ゴルソンのメロディは今も生まれたてのように新鮮。至福の時でした。
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