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April 18, 2013

『ロバート・アルドリッチ大全』を読む

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What ever happened to Robert Ardrich?(book)

先週は数年ぶりに本格的な風邪をひき38度近い熱が出て、2日も寝込んでしまった。そのとき読んだのがこれ。アラン・シルヴァー、ジョイムズ・ウルシーニ『ロバート・アルドリッチ大全(原題:What ever happened to Robert Ardrich?)』(国書刊行会、4200円+税)。1950~70年代に活躍したアメリカの映画監督、ロバート・アルドリッチの監督人生をたどり、作品を分析した500ページ以上の分厚い本だ。ちなみに本の原題は、アルドリッチのヒット作『何がジェーンに起ったか(What ever happened to Baby Jane?)』をもじったもの。

ロバート・アルドリッチはアクション、ノワール、戦争映画、西部劇、スポーツもの、歴史劇、女性もの、映画界内幕ものとあらゆるジャンルの娯楽映画をつくり、傑作もあれば駄作もあり、ハリウッドで成功した映画監督と言われている。それでもこの本を読むと、ジョセフ・ロージーら赤狩りで追放された監督の助監督だったため彼自身も危うく喚問を逃れたり、途中で監督を降ろされてヨーロッパに出稼ぎに出かけたり、ヒット作の収益で自分のスタジオを買ったものの自前の映画が当たらず、数年で手放さざるを得なかったり、浮き沈みも激しかった。

ハリウッドで長年監督という職業を張っていくには、常に巨額の資金集めの問題がつきまとう。アルドリッチのように自分の企画にこだわり、時にリベラルなメッセージを作品に込める監督が資金を調達して企画を実現し、しかもそれをヒットさせ持続的に映画をつくりつづけるのは本当に大変なことなのだと、改めて知らされた。

アルドリッチの映画を初めて見たのは1960年代の中学生のころ。ゲイリー・クーパーとバート・ランカスター主演の西部劇『ヴェラクルス』(1954)だった。そのころ西部劇のリバイバル・ブームが起き、かつての名作が次々再公開された。そのようにして見た一本。最後の決闘、悪役ランカスターがにっと笑って死んでゆく。こんな痛快な西部劇があるんだと興奮した。もっとも、監督の名前は知らなかったけど。この映画はアルドリッチにとって最初の大ヒット作だった。

アルドリッチの名前を最初に覚えたのは『飛べ! フェニックス』(1966)。双発機が不時着して十数人の男たちがサハラ砂漠の真ん中に取り残される。リーダーシップを取るアメリカ人機長、強引に砂漠を突破しようとするイギリス人将校、冷静に生き残りを計算するドイツ人飛行機設計家らが対立しつつサバイバルを図る。ドイツ人設計家が壊れた双発機から小さな単発機をつくることを提案、できあがりかけたところで、彼が模型飛行機の設計家であることがわかって……。並みの監督なら乗客に女優を配するところを、アルドリッチは男だけ。頑固な男たちのぶつかりあいを、時に息詰まるように、時にユーモラスに、そして爽快に描いて素晴らしかった。

60年代後半から70年代前半のアルドリッチは絶好調だった。軍刑務所の凶悪犯12人を率いたリー・マーヴィンの少佐が、ナチス支配下の大陸に潜入しナチ将校の館を急襲する痛快アクション『特攻大作戦(原題:The Dirty Dozen。タランティーノ『イングロリアス・バスターズ』はこの映画へのオマージュ)』。大不況下、列車にタダ乗りするホーボー(リー・マーヴィン)と、それを許さない車掌の死闘がすさまじい『北国の帝王』。刑務所内でバート・レイノルズ率いる囚人チーム対看守チームのフットボール対決を描いた『ロンゲスト・ヤード』(これはアルドリッチ最高のヒット作)。はみだし者の警官が騒動を繰り広げるオフビートな『クワイヤボーイズ』も捨てがたい。

同時に、ビデオを借りたりTV放映されたりした初期作品も見た。滅びゆくアパッチ族最後の戦士を主役にした『アパッチ』。ヌーヴェル・ヴァーグの監督たちに大きな影響を与えたフィルム・ノワール『キッスで殺せ』。ハリウッドを支配する大物プロデューサーの内幕を暴いた『悪徳』。強烈な反戦映画『攻撃』。厚塗りの老ベティ・デイビスがカムバックを目論む元女優を怪演したゴシック・サスペンス『何がジェーンに起ったか?』。痛快なアクション映画の監督とばかり思っていたアルドリッチの硬派な側面も知った。

そして遺作になった『カリフォルニア・ドールズ』。アメリカの農業地帯や寂れた工場町をドサ回りしながら、女子プロレスのタッグ・チャンピオンをめざす2人組「ドールズ」とマネジャーのピーター・フォーク。おんぼろ車でイタリア・オペラのアリアを聞きながらモーテルからモーテルへ移動、ご馳走はハンバーガーで、、、生きる哀しみに満ちたスポーツ映画だった。

アルドリッチの映画に通底するものを一言で取り出すなら、圧倒的に不利な状況に置かれても誇りをもって戦いつづける魂、ということになろう。『スター・ウォーズ』以前のアメリカ映画の最も良質な部分を体現していた監督だったと思う。

わが家にはアルドリッチの十数本のビデオ・DVDコレクションがある。どれも繰り返し見ているから、「またアルドリッチ」と家族に馬鹿にされるけど、この本を読んで、また取り出してしまいそう。今夜は『特攻大作戦』にしようか『カリフォルニア・ドールズ』にしようか、それとも久しぶりに『何がジェーンに起ったか?』でも。

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