『世界でひとつのプレイブック』 捨てられたダークサイド

Silver Linings Playbook(film review)
この映画を見ようという気になったのは、『あの日、欲望の大地で』や『ウィンターズ・ボーン』に出ていたジェニファー・ローレンスが印象に残っていたから。
『世界でひとつのプレイブック(原題:Silver Linings Playbook)』は、ジャンル分けすればロマンティック・コメディということになるんだろうか。僕は原作(集英社文庫)を読んでないけれど、小説と映画でいちばん違うのは主人公・パット(ブラッドリー・クーパー)と父親(ロバート・デ・ニーロ)の関係らしい。映画で父親は躁鬱病であるパットの奇行を温かく見守っているけれど、小説では父親がパットに対してもっと冷たい態度を取っているようだ。
脚本・監督のデヴィッド・O・ラッセルも、当初は原作どおりに撮影を始めたらしい。wikipediaによると、父親がパットに対し厳格で、もっと暗いヴァージョンが撮影されたという。ということは、両方の家族から冷たい目で見られながら、パットとティファニー(ジェニファー・ローレンス)は孤立して愛を育てていくといった感じなのか。でも父親を演じたロバート・デ・ニーロの意見もあって、原作の暗い面は削られることになった。いかにもデ・ニーロらしいけど、そのことでハリウッドらしい、ほのぼのした後味のいい映画にもなった。
パットとティファニーはともに躁うつ病を病んでいる。原因は2人とも夫婦関係。高校教師だったパットは、同じ学校に勤める妻が同僚と不倫している現場に出くわし、暴力を振るって病院に収容された。妻と離婚し、仕事も家も失って、両親の家に同居している。ティファニーは夫が亡くなり、寂しさから会社の同僚全員とセックスして解雇された。近所に住むそんな2人が、ジョギングする路上で出会って物語が始まる。
最初のうち2人は、自分のことで精一杯で他人を思う余裕もなく、会うごとに口論になる。共通の話題はといえば、躁うつ病の治療薬のあれこれが効く効かないとか、意識がぼんやりしていやだ、といった話題。ある日、ティファニーはダンス・コンテストに出るのでパートナーになってほしいとパットに提案する……。
ロマッティック・コメディは古典的なところでは『ローマの休日』とか、1980~90年代のメグ・ライアンの映画とか、アメリカの映画と演劇で古い伝統をもっている。ということは、しっかりした定型があるということで、ともすれば、それらしいセリフやシーンに頼りがちになる。観客もそういうものを期待する。
でもこの映画は、撮影途中や編集段階で映画のテイストを変えるような柔軟な映画づくりをしているせいか、前半はパットとジェニファーの感情の微妙な変化がとてもよく捉えられていると思った。ラッセル監督がもともとインディペンデント系から出てきた監督で、ハリウッドの定型に染まっていないこともあるかもしれない。
でも、後半のダンス大会はそれこそ定型で、ちょっと無理づくり。ロバート・デ・ニーロもエキセントリックな面をちらと見せるけど、最後は息子をサポートする良き父親になって、めでたしめでたし。これはこれで楽しめるけど、ダークなヴァージョンも見てみたかったなあ。
ジェニファー・ローレンスは『あの日、欲望の大地で』や『ウィンターズ・ボーン』で芯のある少女のイメージが強かったけど、すっかり魅力的な女優になってた。アカデミー賞も取って、これからが楽しみ。

Comments
主演女優賞、私はジェシカ・チャステインかエマニュエル・リヴァだったかなーと感じました。ジェニファーは、前半から後半への「変化」が評価されたんでしょうかね。
これ、後半は話が出来過ぎでしたよ・・・。
Posted by: rose_chocolat | March 16, 2013 10:41 AM
僕はまだ『ゼロ・ダーク・サーティ』も『愛、アムール』も見てないんですが、『24時間の情事』の女優さんとは感慨深いですね。来週、『愛…』を見にいくつもりです。ジェニファーはすっかり大人になって。若いのに演技派で。楽しみです。
映画、後半は確かにアメフトもダンス・コンテストもご都合主義でしたね。あれよあれよという感じで。
Posted by: 雄 | March 16, 2013 07:28 PM