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February 11, 2013

夕陽ケ丘からの眺め

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a walk to Yuhigaoka, Osaka(大江神社から新世界方面を見る)

ボランティアの用事で大阪へ行ったので、夕陽ケ丘を歩いてきた。ここへ行ってみようと思ったのには理由がある。

ひとつは、去年、能についての単行本を編集していたとき、能「弱法師(よろぼし)」を見たこと。「弱法師」は夕陽ケ丘のそばに建つ四天王寺が舞台になっている。聖徳太子が創建した四天王寺は上町台地にあり、その西門からは大阪湾に沈む夕陽がよく見えたという。浄土教が広まった中世、夕陽が沈む彼方には西方浄土があると信じられていた。そのような信仰から、四天王寺にはこの世で生きる術を失った乞食(こつじき)や病者が集まり、住みついて浄土への往生を願った。

「弱法師」のシテ(主役)はそんな乞食の一人で、盲目の法師。彼は、盲目になる前に見た大阪湾に夕陽が沈む光景を「今は入日ぞ落ちかかるらん……難波の浦の到景の数々」と嘆き詠う。説経節や河内音頭の「俊徳丸」とも重なる人物である弱法師が夕陽を見た場所は、どんなところだったんだろう。

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地下鉄・四天王寺前夕陽ケ丘駅を降りて台地を崖のほうへ歩くと藤原家隆のものと伝えられる塚がある。『新古今和歌集』の撰者である家隆はここに庵をむすんで「夕陽庵」と名づけ、「契りあればなにわの里にやどりきて 波の入り日を拝みつるかな」と詠んだという。夕陽ケ丘の地名はここから来ている。

写真は崖の縁から振り返って塚を見ている。右手へしばらく行くと四天王寺がある。

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夕陽ケ丘が気になったもうひとつの理由は、中沢新一『大阪アースダイバー』を読んだこと。この本についてはブック・ナビ(LINKS参照)で感想を書いたけど、上町台地の四天王寺とその崖下に広がる新世界、釜ケ崎、飛田、またミナミと呼ばれる歓楽街との生と死、聖と賤の関係について刺激的な考察がなされていた。

「古代から今日にいたるまで荒陵(あらはか。上町台地の崖下を指す古代の地名)と呼ばれたあたりから、釜ケ崎を含むかつての今宮村まで広がる広大な地域が、時代ごとのプロレタリア(無産者)に向かって、やさしく胸襟を開いていた。……大阪にこのような愛隣的現象が起きたのは、崖の上に四天王寺が建っていたためである」

家隆塚の南にある大江神社の境内から崖下を眺める。夕陽でなく午前中だし、もちろん大阪湾は見えない。そのかわり、崖下には新世界の通天閣がそそり立つ。

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大江神社の脇で崖を下る愛染坂。

かつて大阪湾は崖下のすぐ近くまで入り込んでいた。そこへ淀川や大和川から土砂が運ばれて陸になり、その上に現在の大阪の繁華街ができあがった。

中沢新一によると、かつて千日前界隈は広大な墓地だったという。そこを整地して見世物小屋や芝居小屋、寄席が出現した。現在のなんばグランド花月もその上にあり、だから「ミナミの笑いは、このようなネクロポリス(死者の国)の上に、比類ない成長をとげてきたのである」。

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愛染坂のひとつ南の清水坂。

大阪はアップダウンのない平らな町という思い込みがあった。上町台地といっても、本町通りを台地上のNHKや大阪城方向に向かって走ってもたいした坂はない。でもここへ来ると、坂らしい坂があり崖がある。坂や崖といった地形の変化は、人の住まい方とも関係する。このあたり神社と寺の多い町で、だから他の地域より緑が多いのもその結果だろう。

都市の景観という意味でも、崖と坂の緑を挟んで上に四天王寺の五重塔、下に通天閣というのは悪くない。ビルが立て込んで、それを一望できないのが残念だけど。次に大阪へ来たら数十年ぶりに通天閣に登って、この景色を眺めてみよう。

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午後は30年前に一緒に仕事した知人と久しぶりに会って旧交を温め、その後、鶴橋へ。中沢新一が古代、近代、戦後と3層に積みあがった「在日コリア世界」と呼ぶ場所。大阪へ来ると必ず寄る鶴橋市場のなじみの韓国漬物店で岩海苔を買う。

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韓国茶のチャングム舎廊房でザクロ茶を飲んでひと休み。店内には韓流ポップスのDVDが流れ、韓流スターのポスターや写真がいっぱい。

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