『フリーランサー NY捜査線』 悪党2人
ロバート・デ・ニーロとフォレスト・ウィテカーが悪党をやる。そう聞いただけで、この映画を見るのが楽しみだった。ニューヨーク市警の裏組織を牛耳る悪徳警官役。悪徳警官といえば1950年代のマッギヴァーンのミステリー小説やフィルム・ノワール以来おなじみの設定だけど、この2人がどんな悪徳警官になるのか。
デ・ニーロ演ずるサルコーネ警部はニューヨーク市警路上犯罪班長で裏組織のボス。フォレスト・ウィテカー演ずるラルー刑事はサルコーネの右腕で、組織のNO.2。裏組織は市警が押収するドラッグを掠めとり、ドラッグ密売人からは上納金を徴収している。仲間になった警官には稼いだ金をわけ、秘密クラブで酒と女を提供している。
サルコーネは、新入りのアフリカ系警官・ジョナス(カーティス”50セント”ジャクソン)の教育係にラルーを指名し、ジョナスを仲間に引き入れる。彼は、かつて裏組織に属し、何者かに殺された警官の息子だった。ジョナスはサルコーネの手下として働くうち、立派な警官だと信じていた父の死の真相を知る……。
ロバート・デ・ニーロは最近では特別出演ふうにちょっとだけ顔を出す作品も多いけど、『フリーランサー NY捜査線(原題:Freelancers)』では主演クラスの役。裏組織のボスとして、ジョナスを仲間に引き込むときの甘い言葉と笑顔や、裏切りをなじるときの悪党面の表裏二面を見事に見せてくれる。「俺たちに必要なのはマネーとフィアー(恐怖)とリスペクトだ」というセリフに凄みがある。デ・ニーロはこれまで善人役も多く、見る者にはそのイメージが蓄積されているから、悪党役はそれだけに迫力あるなあ。
フォレスト・ウィテカーのラルー刑事は、ジョナスの相棒として覆面パトカーに乗って町を流している。ジョナスはクイーンズ生まれという設定で、ロケもクイーンズのようだ。クイーンズはマンハッタンと違って高層ビルが少なく、住宅や商店街や工場がだだっ広い地域にのっぺり広がっている。住民はアングロ・サクソンは少なく、いろんな国から来た移民が多い。無機質な茶色の建物が立ち並ぶ、プロジェクトと呼ばれる低所得者用公共アパートが何度も画面に登場する。
ラルーは、パトカーでドラッグをやるほどのヤク中。犯罪現場に駆けつけても、倦怠感と、いつ切れるかわからない不穏な気配を全身から発している。フォレスト・ウィテカーを最初に見たのはクリント・イーストウッド監督『バード』のチャーリー・パーカー役だったけど、その後、いろんな映画の脇役として印象に残っていた。アフリカ系にしては肉の締まってない、茫洋とした雰囲気が持ち味。そんなウィテカーが凶暴な気配を湛えたこの映画の悪党はすごくいい。
新米警官ジョナスになるカーティス”50セント”ジャクソンは俳優でなく、ヒップホップ・ミュージックのラッパー。そのせいか、これが長編3作目の監督ジェシー・テレロがMCクリップ出身のせいか、映画は全編にラップはじめブラック・ミュージックが散りばめられている。作品自体に新味はないけど、B級プログラム・ピクチャーの味があるのが嬉しかった。
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