『燃えよ! じじいドラゴン 龍虎激闘』 Viva!香港映画
ブルース・リーの『燃えよ! ドラゴン』が日本で公開されたのは1973年だった。香港でのブルース・リー人気に目をつけたハリウッド映画だったけど、この映画をきっかけに香港クンフー映画が続々公開され、大ブームになった。僕がそのころ入れ揚げていたのは東映任侠映画で、だから香港クンフーに熱を上げたわけじゃない。ファン層も20代半ばのこちらより一世代若い10代が中心だった。それでも、ブルース・リーやマイケル・ホイの『Mr. Boo』や若きジャッキー・チェンの映画をそれなりに見ている。
ブルース・リーのブレイクをきっかけに香港映画の全盛時代がやってきた。クンフー映画だけでなく恋愛もの、青春ものやアクション、ノワールなど色んなジャンルの映画がつくられ、日本でも次々に公開された。でも1997年、香港の中国返還をきっかけに香港映画は停滞してゆく。
才能ある監督や役者がハリウッドに移ったこともあるけれど、一言で言えば中国本土に向けた映画が多くなった。市場の大きさを考えれば当然だけど、本土との合作も増え、結果として香港映画らしい特徴が薄くなってしまったのは否めない。無論、ツイ・ハークは香港映画の伝統を守っているし、ウォン・カーウァイみたいな才能はいるし、ノワールはジョニー・トーが頑張っているけれど、香港映画全体としてはかつての元気がないように見える。
『燃えよ! じじいドラゴン 龍虎激闘(原題:打擂台)』は、そんな香港映画が翳りを見せている時代に、かつてのクンフー映画のスターを集め、香港クンフーへのオマージュを捧げた作品。製作総指揮をアンディ・ラウが務め、監督は若手のデレク・クォックにクレメント・チャン。ただ過去を懐かしむ作品じゃなく、若手の役者と組み合わせたり、音楽もエンドロールで広東語ヒップホップが流れたり、過去と現在をつなごうとする姿勢がいいね。もちろん、かつての香港映画の定番がたっぷり盛り込まれている。
中心になるのは70年代に『帰ってきたドラゴン』などに主演したブルース・リャン、『嵐をよぶドラゴン』のチェン・クワンタイのじじい2人。これに『ドラゴンロード』のチャーリー・チャン、音楽家で役者でもあるテディ・ロビンの、やはり60代の2人が絡む。
不動産会社に勤める草食系の青年チョン(ウォン・ヤウナム)が上司に命じられ、地上げの手伝いに村へやってくる。地上げの相手は、茶舘を営むソン(ブルース・リャン)とセン(チェン・クワンタイ)の2人の老人。2人は、30年間昏睡しているクンフーの師匠ロー(テディ・ロビン)の面倒を見ながら、道場を茶館に衣替えして守っていたのだ。地上げしようとしているのはクンフー大会でひと儲けを企む龍青(チャーリー・チャン)。チョンはひょんなことから地上げする当の相手2人に助けられ、事情を知って彼らに弟子入りして(美少女もいることだし)、地上げしようとする龍青らとクンフーで対決する……。
背が低く、眼鏡をかけ、足をひきずり、帽子を脱がないので多分禿げている、どこから見ても冴えない年寄りのブルース・リャンが、いったんクンフーをやりだすと、きびきびした動きで拳と蹴りを繰り出す。その瞬間の意外性が痛快! リャンが決めポーズを取ると画面はが、が、がとクローズアップされ、拳を突き出すと画面は劇画っぽいアニメに変わる。遊び心たっぷり。
冒頭とラスト、2度にわたるクンフー対決の見せ場がある。最後、負けて倒れたリャンが突然笑い出す。それを見た相弟子のチェン・クワンタイも笑い出す。「戦わなければ負けない。でも戦う以上は勝て」という師匠の言葉に応えられなかったわけだけど、それでもからからと笑えるのは、彼らが歳を重ね、じじいになり、しかし戦わずに負けたのではなく戦って負けたからだろう。
30年の眠りから突如目覚める老師匠のチャーリー・チャンも怪演。30年たったことを知らず、若いチャンを弟子と間違えたり、若い女の子を口説いたり、カラオケで歌いまくったり、駄洒落を飛ばしたり。いかにも香港映画らしいキャラクター。
全編が能天気なご都合主義と、センスがあるとは思えないギャグと、臆面もないセンチメンタリズムにヒロイズム、そして根は健全で楽天的な精神と(どれも誉め言葉です)、全盛時代の香港映画テイストが満載だ。
中国語版wikipediaに、別バージョンの面白いポスターが載ってた。ブルース・リャンやチェン・クワンタイ、テディ・ロビンの姿がじじいでなく若い。香港の観客たちも、スクリーンの向こうにこういう姿を重ねて涙したんだろうな。東京の六本木シネマートも、僕など遠く及ばないクンフー映画フリークでいっぱい。見終わって、「うーん、深い」と感激しておりました。
Comments
さっそく格闘技大好き息子らに教えました。が、私からの情報はことごとくバカにする彼ら、とりあってくれるかな・・・。
ありがとうございます
Posted by: aya | January 14, 2013 05:02 PM
それはそれは。
でも格闘技といっても色んなジャンルがあるから……。かつてのクンフー少年なら喜んでもらえるかもしれませんが。あるいは香港映画が好きならば。
Posted by: 雄 | January 15, 2013 11:41 AM