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January 19, 2013

『LOOPER/ルーパー』 カントリーSF

Looper
Looper(film review)

『LOOPER/ルーパー(原題:LOOPER)』はタイム・トラベルもののSFアクション。このジャンルのヒット作はなんといっても『ターミネーター』だけど、『LOOPER/ルーパー』も、未来から来た殺し屋が未来の指導者になるはずの子供を抹殺しようとする『ターミネーター』の設定を多分ヒントに、さらにひとひねりした設定になってる。そのひねり具合が面白い。

未来(2074年)ではタイム・マシンは非合法化され、犯罪組織のみがマシンを持っている。犯罪組織は証拠を残さず抹殺したい人間をタイム・マシンで現在(2044年)に送り込む。現在にはルーパーと呼ばれる殺し屋がいて、転送された人間を即座に射殺する。ある日、ルーパーのジョー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)に転送されてきたのは30年後の自分、オールド・ジョー(ブルース・ウィリス)だった。オールド・ジョーはジョーの隙をついて逃亡し、ジョーは30年後の自分を追うことになる。オールド・ジョーが逃げたのは、ある子供を殺すためだった……。

これが長編3作目の若手、ライアン・ジョンソン監督は脚本も書いている。追う者と追われる者が同一人物というアイディアを思いついたとき、しめたと思ったんじゃないかな。そこで鍵を握るのが現在と未来のジョーのキャスティング。ジョンソン監督は前作でジョセフ・ゴードン=レヴィットを使っていて、脚本を書くとき、現在のジョーはゴードン=レヴィットに宛て書きしたらしい。その上でオールド・ジョーにブルース・ウィリスを選んだ。

最初、ジョセフ・ゴードン=レヴィットとブルース・ウィリスは似てないじゃないかと思った。多少似てるのは目元くらいで、ジョセフは八の字眉、ブルースはいつも眉間に皺寄せてるし、顔の輪郭も違う。黒い髪をリーゼントふうになでつけたジョセフと、見事に光ってるブルースも対照的だ。でも映画の中ごろで、ジョーの5年後、10年後、20年後が描かれると、特殊メイクで見事にジョセフがブルースになっていく。最初に2人が顔を合わせたとき似てなかったのは計算づくだったのか。

面白かったのは、2044年の現在があまりSFぽくないこと。舞台になるカンザス・シティの町を、例えば『ブレードランナー』みたいにSF的につくりこんでない。車輪のないスクーターが出てくるけど、これもチープな感じ。町が2013年の今とあまり変わらず、でも貧困者が路上にたくさんいて、スクールバスを住まいにしていたりする。未来(2074)の犯罪組織の本部は上海に置かれているし、ルーパーとして大金を稼いだオールド・ジョーも上海で中国人の妻と暮らしている。この設定の背後には、中国が世界の中心になり、アメリカは貧しくなっているという苦い認識があるんだろう。

もうひとつ、へえと思ったのは、中西部のカンザス・シティという都市だけでなく郊外の農業地帯が出てくること。マシンで抹殺すべき人間が送りこまれてくる場所は決まってサトウキビ畑の脇にある。オールド・ジョーが目指すサラ(エミリー・ブラント。ちなみに『ターミネーター』のヒロインもサラだった)の家も農場を営んでいる。ラスト、現在と未来のジョーが対決する場面を含め、重要なシーンがどれもサトウキビ畑を舞台にしている。

これまで、タイム・トラベルものはほとんどといっていいくらい都市を舞台にしていた。それを農村地帯にしたことで、ある種のどかで、あまりSFぽくないテイストの映画になっている。だからこの映画を見て思い浮かべたのは『ターミネーター』や『マトリックス』ではなく、『フィールド・オブ・ドリームス』だった。あの映画はとうもろこし畑だったけど、やはり中西部。予算の問題もあるかもしれないけれど、監督が意識して選んだことだろう。今も昔も未来も変わらないであろう田園地帯の風景に、「現在」のカンザス・シティと「未来」の上海が組み合わされて、一風変わったテイストのSFになっていた。


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