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January 10, 2013

『サイド・バイ・サイド』 フィルムかデジタルか

Side_by_side
Side by Side(film review)

映画のデジタル化といえば、CGを駆使したVFX(ヴィジュアル・イフェクト)に目がいくけど、それだけでなく撮影現場から上映までデジタル化が急速に進んでいる。「フィルムからデジタルシネマへ」とサブタイトルの打たれた『サイド・バイ・サイド(原題:Side by Side)』は、俳優のキアヌ・リーブスが製作し、インタビュアーにもなって、ハリウッドを代表する映画監督、撮影監督、編集者、機材開発のエンジニアらにフィルムとデジタルの問題について話を聞いたドキュメンタリー。

『スターウォーズ』以来、早くからデジタルシネマに挑戦してきたジョージ・ルーカスは「当時は悪魔の化身だと悪口を言われたよ」と語る。『ダーク・ナイト』などであくまでフィルムにこだわるクリストファー・ノーランは、「闇の黒色はフィルムでないと出ない」と言う。『チェ』で最新のデジタル撮影機を使ったスティーブン・ソダーバーグは、「小型で、暗いところでも撮れるのでジャングルのなかで撮影できた」と語る(記憶で書いているので間違ってたらゴメン)。

別にフィルム派とデジタル派を対立させるわけでなく、どちらにも長所と欠点がある。結局は、『ヒューゴの不思議な発明』で3D映画をつくったマーチン・スコセッシが言うように、「撮りたいものをどう表現するか、手段の問題だ」ということだろう。でも、従来デジタルの欠点とされてきた描写の不自然さやダイナミック・レンジ(明暗差の幅)の狭さが改善され、デジタル化が今後さらに加速するのは誰にも逆らえない時の流れだろう。

デジタル化はそんな技術の問題だけでなく、技術の背後に潜む思想の問題でもある。フィルム撮影では、翌日にラッシュを見るまで、撮影した映像を知るのは撮影監督のみだった。でもデジタルの登場によって撮影した映像がその場で再生できるようになり、撮影監督の特権的立場は失われた。また、安価な機材で、しかも少人数(監督兼撮影監督1人でも)撮影できるようになったことで、誰もが映画をつくれるようになった。

インディペンデント映画が集まるサンダンス映画祭に出品される映画の多くが、今ではデジタルで撮影されている。大きな資本と多数の専門家集団のものだった映画は「アウラ」を失い、大衆に開かれた。もっともデビッド・リンチは「みんなに紙と鉛筆を持たせたからといって、いい物語が生まれるわけじゃない」と、リンチらしい皮肉っぽい言い方をしてるが。

それはともかく、この映画で改めて確かめられたのは、デジタル化によって映画の文法に変化が生まれたこと。最初のデジタル撮影映画には、ソニーの家庭用デジタル・ビデオ機が使われた。手に入るくらいの大きさだから、カメラを自由に動かすことができる。ヨーロッパで撮られたその映画が紹介されているけれど、カメラを振り回してまるで素人が撮ったものみたいに感じられる。でもそのことで、ある種のリアリティが生じている。

今思えば、その手法に初めて接したのはテレビ映画の『24』だったろうか。全編が(多分デジタルの)手持ちカメラで撮影され、人の顔のアップなど静止したシーンでも微妙に画面が揺れる。その揺れが、独特の緊張感を醸しだしていた。現在も放映されている『CSI』や『コールドケース』なども手持ちのデジタル・カメラで撮影されていると思う。映画カメラが三脚から解放されたわけで、写真の世界でいえば小型カメラ、ライカの誕生と似たようなものか。

暗いところでも撮れるようになったことも、デジタル撮影の特徴。その初期の試みがマイケル・マンの『コラテラル』だったそうで、あの映画でいちばん印象的だった夜の道をコヨーテが横切るショットが紹介されている。トム・クルーズが殺し屋に扮した一夜の物語。ほとんどのシーンが夜だから、デジタル撮影の強みを最大限生かしたことになる。舞台になるロスの夜景が素晴らしかった。

かつてハリウッドでは、夜と設定されたシーンは昼間にレンズにフィルターをかけて撮影し、夜の雰囲気を出したものだけど(day for nightと呼ばれ、トリュフォー『アメリカの夜』の原題になった)、今はもうそんな必要もなくなった。

小型軽量で手持ち撮影ができる、暗いところでも撮れるという強みを両方生かしたのが、ソダーバーグの『チェ』。エルネスト・チェ・ゲバラの伝記であるこの2部作は、特に第1部は大部分が薄暗い森のなかで物語が進行する。ほとんどが手持ち、しかも自然光で撮影され、ドキュメンタリーでも見ているような気分にさせられる映画だった。デジタル・カメラでしか実現できなかったスタイルの作品だろう。

映画を製作し、インタビュアーも努めたキアヌ・リーブスは、初期VFXの代表的な作品『マトリックス』に主演してたけど、本人はどちらかというとフィルム派だったらしい。でもこの映画をつくって、フィルムとデジタルが共存共栄(side by side)していけると考えるようになったという。役者としてのキアヌに感心したことはないけど、こういう問題意識でドキュメンタリーをつくってみせる。ハリウッドはやはり侮れない。フィルムとデジタルの違いを基礎から解説もしてくれて、面白いドキュメンタリーだった。


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Comments

フィルム修復に尽力するスコセッシに感謝した昨年ですが、こういう映画を製作するキアヌもまたすばらしいですよね。すごく興味深いドキュメンタリーでした。
コラテラルの夜がとてもいい感じだったことなどを私もよく覚えています。
つくり手が選べる環境のまま、それぞれの長所がいかされる映画製作が続いてほしいです。
今年もよろしくお願いします。(ブログ元のに移りました。)

Posted by: かえる | January 20, 2013 at 10:00 AM

フィルムでなければできない表現と、デジタルでなければできない表現と、どちらも映画を豊かにしてくれるなら大歓迎です。心情的にはフィルム派ですが、デジタルが新しい表現を開拓しているところにも惹かれます。

元のブログへ戻られるとのこと。楽しみに訪問させていただきます。

Posted by: | January 21, 2013 at 10:25 AM

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公式サイト。原題:Side by Side。ドキュメンタリー。クリス・ケニーリー監督、キアヌ・リーブス、マーティン・スコセッシ、ジョージ・ルーカス、ジェームズ・キャメロン、デヴィッド・ ... [Read More]

Tracked on January 10, 2013 at 06:54 PM

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