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November 18, 2012

『みんなで一緒に暮らしたら』 75歳の恋愛映画

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Et si on vivait tous ensemble?(film review)

フランス文学者の鹿島茂さんが、「フランス人は国民性のなかに恋愛が埋め込まれている」と言っている(11月14日、朝日新聞)。さすが鹿島さん、うまいことおっしゃる。そういう目で『みんなで一緒に暮らしたら(原題:Et si on vivait tous ensemble?)』を見ると、これはほのぼのしみじみの老人映画なんかでなく、現役ばりばりの恋愛映画に見えてくるから面白い。75歳になるジェーン・フォンダがその主役。

40年来の友人である2組の夫婦とひとりの独身男が、死の準備をしなければならない歳になって共同生活を営むことになる。独身で女遊びも盛んな写真家クロード(クロード・リッシュ)が心臓発作で倒れ老人ホームに入れられる。それを見舞った2組の夫婦が、こんなところで死なせられないと施設を脱走させ、社会活動家ジャン(ギイ・ブドス)とアニー(ジェラルディン・チャップリン)夫妻の家に連れてきたのだ。認知症の症状が出始めたアルベール(ピエール・リシャール)と元哲学教師ジャンヌ(ジェーン・フォンダ)夫妻もアパートを引き払って越してくる。

5人は固い友情で結ばれているのだが、ひとつ屋根の下で暮らすことで、彼らの過去の恋愛が浮上してくる。ジャンヌと写真家のクロードはかつて不倫の関係にあり、居間でクロードと2人だけになると、彼女は戯れにヌード・モデルがよくするポーズを取ってみせたりする。2人の間には昔の恋愛感情が今も流れているようだ。もっとも、本気なのかといえばそうとも言えない。かつての恋愛感情の揺曳を楽しんでいる、といった風情。

実はモテ男のクロードは、ジャンヌと同時進行でかつてアニーとも不倫の関係にあった。アニーは自分の家の居間でクロードとジャンヌが戯れているのを偶然見てしまうが、彼女は何も言わずそっとドアの陰に姿を隠す。その短いショットで、アニーもまたクロードに対する恋愛感情を引きずっているのかもしれないと思わせる。感情を素直に表に出すジェーン・フォンダに対して、深い思いを内へと秘めるジェラルディン・チャップリンの老婆ぶりも見事だ。同じ屋根の下の微妙な三角(それぞれ夫がいるから五角?)関係。

5人の共同生活に、ひとりの若い男が入ってくる。ジャンヌが犬の散歩のために雇った学生のディルク(ダニエル・ブリュール)。民俗学研究者の卵であるディルクは、ジャンヌの勧めで5人の世話をしながら老人の共同生活を研究対象として記録しはじめる。ジャンヌとディルクが犬の散歩に公園に出かけ、ベンチでジャンヌはディルクに生々しい話題を振ってゆく。私たちにセックスがあると思う? 夫とはたまにしかないけど、自慰はする。そのとき誰を思い浮かべると思う? ディルクは、どぎまぎして答えられない。

教師が学生を指導するような対話を交わしながら、ジャンヌは息子どころか孫ほども若いディルクに恋愛ゲームを仕掛けているように見える。もちろん、これも本気じゃない。実はジャンヌは重い病気にかかっているのだが、手術を拒否し死期が近いことを自覚している。その上での友人との共同生活であり、戯れの恋愛感情なのだ。そうやって人生の最後の時間を楽しんでいる。

ジャンヌだけではない。自分が撮った女たちの裸の写真をトランクにためこんでいるクロードも、共同生活から抜け出して娼婦を買うのが楽しみ。若いディルクにバイアグラの調達を頼むあたり笑ってしまうけれど、ジャンヌとの戯れだけでなく、娼婦との一時の疑似恋愛を楽しんでいる。ジャンヌもクロードも、若い男と女の一途な恋愛とは違うけれど、年齢がもたらす余裕をもちながら恋愛を楽しみつくそうとしている。

共同生活のなかで秘められた過去の恋愛が表沙汰になり、5人の友情に亀裂が入りそうになるけれど、これもまた年齢がもたらす互いの寛容さで乗り越える。画面がぽんと切り替わって、画面いっぱいにアップされたグラスにシャンペンが注がれる。5人が変わらぬ友情を確認するのかと思わせておいて、それがいきなりジャンヌの葬儀。ジャンヌが生前に注文したピンクの棺の上に、4人がシャンペン・グラスを置いて去ってゆくシーンが洒落ている。

40年ぶりでフランス映画に出演した75歳のジェーン・フォンダが魅力たっぷりで、見惚れてしまった。

脚本・監督は42歳のステファン・ロブラン。商業映画2作目。この若さで、このキャリアで、こういう大人の映画をつくることを可能にするのは、やっぱり「国民性に恋愛が埋め込まれている」せいなのかな。


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Comments

シネスイッチ銀座で拝見しました。
老いて擬似恋愛を楽しむ余裕の仏映画、良かったです。それにしても学生のディルクが住み込んで取材していくあたり、同じドキュメントらしきをしている自分にはつまされます。かく身直でかくお手伝いもしてあげられ・・密着成功、ああ自分には適わない、余談でした。最後名前を呼びながら遠くなるシーン心に残りました。ありがとうございました。

Posted by: 坂巻ちず子 | December 10, 2012 at 01:31 PM

ラストシーン、こういう終わり方はいいですね。余韻があって。

民俗学は対象といかに近くなれるかが大切ですが、ドキュメンタリーも同様ですね。いつか坂巻さんの作品を拝見したいものです。

Posted by: 雄 | December 11, 2012 at 10:42 AM

これは見てないです。単館なのでなかなか行きづらく・・・。
こういう映画が日本でも公開になったということは、これから日本でも高齢者も益々増えるので、彼らの恋愛観もどんどん変わっていくことに対応したのでしょうね。
フランス人は確かにアムールの国ですからね。何事においても愛が最優先っていうのがあります。

Posted by: rose_chocolat | December 12, 2012 at 08:37 AM

roseさんおっしゃるように、こういう映画の製作も公開もどんどん増えるでしょうね。シネスイッチは昼の回からけっこう混んでいて、シニア料金で見に来る高齢者向けのラインナップを意識して組んでいるようにも思えます。私もその一人ですが。

Posted by: 雄 | December 12, 2012 at 03:16 PM

再度で失礼します。
知合いのまだ若い独身の女性(ピアノをしてます)がこの映画を絶賛してました。フランス映画は、品良くお洒落だし、ユーモアもたっぷり、しみじみほのぼの心もあったか~くなるけど、色々考えさせられる映画で良かったと。

Posted by: 坂巻ちず子 | December 16, 2012 at 02:29 AM

知り合いの若い女性にも受け入れられたのは、この映画の登場人物は高齢者ですが、中身はとりたてて高齢者向けの作品ではない、ということかもしれませんね。人間誰もが持っているものが描かれているからこそなのでしょう。

Posted by: 雄 | December 16, 2012 at 05:22 PM

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