『そして友よ、静かに死ね』 男の顔
『そして友よ、静かに死ね(原題:Les Lyonnais=リヨンの男たち)』でいちばん印象的だったのは、元ギャングのモモン(ジェラール・ランヴァン)はじめ、出てくる男たちに刻まれた深い皺や悲しげな目、白くなった髭をたくわえた顔のアップだったなあ。昔、『男の顔は履歴書』って映画があったけど、年を重ねた男の顔はその過去を語る。そんないくつもの顔を見ているだけでも、映画館に足を運んだ甲斐があった。まだ見ていないけど北野武『アウトレイジ・ビヨンド』の男たちはどうだろう。
ロマ族(ジプシー)のモモンは「リヨンの男たち」と呼ばれた強盗グループのリーダー。子供のころ差別されたモモンを助けて仲間になったフランス人のセルジュ(チェッキー・カリョ)以外は、口髭のクリスト(ダニエル・デュバル)はじめロマ族が多いらしい。物語は男たちが年老いて引退した現在と、ギャングとして暴れまくった1970年代を行き来しながら進むけど、若いギャングたちはいつも、流れ者であるロマがいっとき居住する野原のキャンピング・カーや粗末な小屋にたむろしている。
ロマ族は東ヨーロッパに多いけど、フランスやスペインにも数十万単位で住んでいる。東ヨーロッパのロマを主人公にした映画といえばクストリッツァの何本もの映画や『ガッジョ・ディーロ』を思い出す。フランス映画でロマを主人公にした、しかもフィルム・ノワールといえばアラン・ドロンの『ル・ジタン』があった。「ジタン」とはフランス語でロマのこと。ロマの一匹狼、アラン・ドロン演ずる主人公の孤独な反逆がいかにも70年代の映画だった。
『ル・ジタン』の監督はジョゼ・ジョバンニ。1960~1970年代のフレンチ・フィルム・ノワールを代表する監督だった。ジョバンニは本当のギャングで後に小説家に転向、暗黒小説と呼ばれるハードボイルドを書いた(確か『気狂いピエロ』の原作も)。そこから映画に転じ、『ラ・スクムーン』『暗黒街のふたり』『ブーメランのように』などでJ.P.ベルモンド、アラン・ドロンらのスターを輝かせた。
もう一方のフレンチ・フィルム・ノワールの雄、ジャン=ピエール・メルヴィルの作品がリアリズムを基底に、ハードかつ寡黙な映画だったのに対し(僕はメルヴィルが好きだった)、ジョゼ・ジョバンニの映画は情動にあふれ、熱く、時にセンチメント過剰になる。
『そして友よ、静かに死ね』のオリヴィエ・マルシャル監督は、『あるいは裏切りという名の犬』もそうだったけど、ジョゼ・ジョヴァンニの熱く、情動的なフィルム・ノワールを受け継いでいる。男たちの顔のアップはじめ、どんぴしゃり決まった画面、絶えず背後に流れて観客を揺さぶる音楽(70年代のシーンではジャニス・ジョプリンやディープ・パープル)、正統派のカットつなぎといった演出で、男たちの友情と裏切り、家族との葛藤というこれまたフィルム・ノワールの定番のストーリーが展開する。
フィルム・ノワール好きとして見ていて心地よいけれど、あまりにノスタルジックであることにいささか不満も残る。フレンチ・ノワールを見ていたころは東映仁侠映画もよく見たけど、いま東映任侠映画を当時のテイストそのままでつくられたらどう感ずるだろう。2010年代につくるフィルム・ノワールの意味、なんて考えても始まらないのかな。
Comments
ノワールって実はあまり得意じゃない分野なんですが、本作はモモンがカッコよかったです。
ただ本作の場合、邦題がね。これはどうかなと思います。これだと見え見えなのです。
あまりにも話がストンと行き過ぎてしまったので、これでいいのかという気にもなったんだけど、それがノワールなんでしょうかね。
Posted by: rose_chocolat | October 04, 2012 01:33 PM
最近のノワールの邦題、フレンチも香港も同じような語感でいやな感じですね。一昔前の誰だかのハードボイルド小説のタイトルみたいで。なかでもこれは露骨なネタバレ。反則じゃないでしょうか。
まあノワールはおおむね定番の世界ですが、定番のなかでどんな細かな工夫をするかが勝負。これは勝負球がストレートど真ん中でした。
Posted by: 雄 | October 04, 2012 06:29 PM