『アウトレイジ ビヨンド』 言葉の抗争劇
フレンチ・ノワール『そして友よ 静かに死ね』でいちばん印象に残ったのは深い皺が刻まれ白髭をたたえた男たちの顔だったけど、『アウトレイジ ビヨンド』の男たちも負けてない。なかでも大阪のヤクザ組織の幹部を演ずる西田敏行と塩見三省がすごい。
濃い目のメイク、この映画のために少し太ったのか、「気のいいおじさん」ふうなイメージから一転して凄みを利かせる西田と、こんな男が近くにきたら思わず避けてしまいそうな悪人面の塩見。そこに大阪弁の迫力が加わって、彼らふたりがすごむと中尾彬や光石研ら関東のヤクザでは太刀打ちできない。
続編というのは、いろんな意味で難しい。続編が作られるということは、前作がヒットしたか、評判が良かったからに違いない。実際、前作『アウトレイジ』は、このところ不調だった北野武監督が、かつての暴力を扱ってもどこか静謐な映画から一転してエンタテインメントな快作だった。
前作で面白かったのは、暴力渦巻く世界で穏やかで忠実そうな顔をしながらしれっと親分を裏切る三浦友和や、切れ者の経済ヤクザを演じた加瀬亮、ヤクザと持ちつ持たれつ、彼らを操りつつ出世しようとする刑事の小日向文世といった面々だった。『ビヨンド』は前作で光ったこの3人を軸に構成されている。
ただ、単純な武闘派じゃない彼らのキャラクターの面白さは見る者は既に分かっているわけだから、彼らにそれ以上の味付けは難しく、そこは辛いところ。『ビヨンド』は、前作で生き延びたこの3人が自滅してゆく物語になっている。
親分を殺してボスにのし上がった三浦友和を狙うのは、前作のいわば敗者である北野武と中野英雄。前作で敵味方だった2人を結びつけ、強大になった三浦・加瀬の組織に対抗させようと謀るのが小日向文世。
だからこれ、北野武と中野英雄が落とし前をつける復讐譚で、かつての東映ヤクザ映画なら彼らの恨みを軸に情感あふれる抗争劇に仕立て上げたろう。でも北野武はそっちの筋は深追いせず、2人の出現によって表面化する組織の内部対立と、それに絡む神山繁ら大阪のヤクザ組織との虚実入り乱れた抗争を、かつての深作欣二などに比べればずっと醒めた目で見つめている。
直接的な暴力描写が少ないこともあって、だからこの映画、熱くない。熱いといえば、暴力ではなく大阪弁対東京弁の言葉のやりとり。西田・塩見の大阪弁対北野・中野の東京弁の対決が最大の見所だ。さらに、殺し合いの現場を描かず、死体がころがっている暴力団事務所を引き気味に捉えたショットなど、いかにも北野武好み。深作欣二の『仁義なき戦い』は手持ちカメラのぐらぐら揺れ動く映像がエネルギッシュだったけど、ここでは静かな画面が挟み込まれ、そこに死の匂いが漂う。ちらりと『ソナチネ』の世界を垣間見せる。
ただし、エンタテインメントとしての面白さは『アウトレイジ』に比べるといまいち。ラストも小日向文世が相手ではヤクザ映画らしいカタルシスに欠けるなあ。
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Comments
裏切り 陰謀 罵声 前作もよかったが 今回の続編もよかったです。
加藤のやり方で 昔からの古参幹部たちは 新参の石原に冷遇されても なんとも思わず ないがしろにし過ぎたのが かえって 組の結束が弱くなったことが 三王会が衰退のきっかけだったようにもおもえました。
花菱会(関西)で 神山繁さん演じた会長 重鎮ならではの 心理掌握話術が 巧みでした。 敵の組の古参幹部が協力してきたってコトは 三王会は "結束力が弱くなっとるわ"と 見抜いて あざ笑ってたに違いない。
加藤にも
「一度人を裏切ったやつは 何回でも裏切りよる」
こう言って 加藤は疑心暗鬼にさせ・・・むろん 石原や他の幹部組員は おそらく今後やってただろうし、言うとおりなのでしょうが・・・
自分も前会長の関内を射殺した経緯があるため とうぜん組員を信用ができなくなる・・・
この一言で 完全に バラバラになった三王会の結束は元通りに戻らなくなったと見ていいでしょうし。
組がつぶれた者同士で結束した大友と木村。
奇妙な結束でしたが おたがいわだかまりが なくなってたので ほんのちょっぴりの"美しさ"を感じました。
最も下劣な男は なんといっても 小日向文世さん演じたマル暴の片岡でしたね・・・こいつには 下劣すぎて ムカムカです。
Posted by: zebra | March 18, 2013 10:58 PM
『仁義なき戦い』の何作目だったか、やはりドンパチよりも人間関係の離合集散が描かれたのがありましたが、それを思い出しました。『仁義』の悪党は金子信雄で、それに比べると小日向文世はずいぶん小粒でした。
Posted by: 雄 | March 19, 2013 11:32 AM