菊地成孔ダブ・セプテットを聞く
Kikuchi Naruyoshi Dub Septet live
今年の春(だったか)菊地成孔ダブ・セクステット(クインテット+ダブ・エンジニア)を聞いたとき、菊地自身がMCでこのグループでの演奏はこれが最後、次は新しいバンドになると言ってた。ネットその他の噂では、トロンボーンが、しかも女性プレイヤーが入るらしいということだった。これはぜひ聞かなきゃということで、セプテット(セクステット+ダブ・エンジニア)の初ライブに行ってきた(9月13日、表参道・BLUE NOTE)。
いつものように、拍手に迎えられてタイトなスーツにネクタイと揃いのユニフォームで決めたメンバーがステージに登場してくる。噂通り、従来のメンバーに加えて、女性トロンボーン・プレイヤーの駒野逸美が登場。小柄、肩までのストレート・ヘア、若い。菊地はテナーでなくアルト・サックスを抱えている。
演奏したほとんどは知らない曲だった。でも一人、あるいはサックス、トランペット、トロンボーンの3管を重ねた音でテーマを吹き、それぞれがソロを取る形は変わらない。お披露目だからか、ピアノやベースを含めそれぞれのソロをきちっと聞かせてくれる。菊地のアルトや類家心平のトランペットの速さと濃密さに対抗して、駒野のトロンボーンも頑張っていた。前半はまだボジョレ・ヌーヴォーみたいな味だったけど、後半はぐいぐいとバンド全体が盛り上がる。ピアノの坪口昌恭がドライなタッチで聞かせた。
後で調べると、1曲目の「STRAUS SPHUNK」はじめ、「LYDIOT」「CONCERTO FOR BILLY THE KID」などジョージ・ラッセルの曲(プラス菊地の曲)が多い。そうか。ジョージ・ラッセルもサックス、トランペット、トロンボーンの3管セクステットを持っていたから、その編成を基にしているのか。
もっともセクステットといっても、有名なジャズテット(カーティス・フラー、ベニー・ゴルソン、アート・ファーマー)みたいな、いかにもジャズらしいハードパップでなく、演奏はあくまでクールにしてハード。以前のバンドはマイルス・クインテットを下敷きに彼らの曲を現代的に演奏するというのがコンセプトだったようだから、これからはラッセル・セクステットを参照しつつ彼らの音楽を現代的に甦らせるって方向なんだろうか。
ジョージ・ラッセルは「リディアン・クロマティック・コンセプト」というジャズ理論を提唱したことで知られる。なにせ菊地自身が「完全に理解してるわけじゃない」(菊地・大谷能生『東京大学のアルバート・アイラー』文春文庫)と言ってるくらいだから僕にはさっぱり分からないけど、大雑把に言えば「ドレミファソラシド」でなく「ファソラシドレミファ」のリディアン・スケールに基づいて音楽をやるということらしい。いわゆる「モード奏法」ですね。
モードといえばマイルスだから、マイルスの次にラッセルを選んだのは、菊地のなかでは必然だったんでしょう。となると、ジョージ・ラッセルはピアノだから、前のバンドでマイルス役だった類家心平のように、ピアノの坪口昌恭の出番が多くなるのかな。
聞き手としては、どんな理論、どんなコンセプトであろうが、いい音楽が聞ければそれでいい。菊地成孔のバンドは常にコンセプチュアルでありながら、いい音を出す。だから好きになれる。このバンドがどう成熟していくのか。楽しみだなあ。アンコールで「甘いのを1曲」と言って演奏した「DO YOU KNWO HONEY?」。ダンサブルで、それまでのぐりぐりと濃い音の緊張をほぐしてくれました。これがまた憎い。
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