トニー・スコットを悼む
memories of Tony Scott's films
トニー・スコット監督が自殺したと報じられている。ロサンゼルス港近くの橋のフェンスによじ登り、飛び降りる姿を目撃されていた。遺書もあったというが、自死の本当の理由など他人からはうかがい知れない。それにしても、なぜ、と思う。
兄のリドリー・スコットとやっていた制作会社「スコット・フリー」のプロデューサーとしてどんな問題を抱えていたか知らないけれど、少なくとも映画監督としてのトニー・スコットは充実していた。この10年を見ても、『マイ・ボディガード』『デジャ・ブ』『サブウェイ123 激突』『アンストッパブル』と快作を連発し、アクション映画の監督としてハリウッドでも一、二を競っていたと思う。最近では、兄のリドリーよりトニーの新作のほうが楽しみだった。
もっとも興行成績は必ずしも良くなかったようだ。wikipediaによると、『サブウェイ123 激突』が興行的に振るわず、進行していた『アンストッパブル』の企画が中断したこともあったという。かつて『トップガン』で組んだトム・クルーズのような華のあるスターでなく、デンゼル・ワシントンという地味な役者と組みつづけたのは、トニーの好みを示しているだろう。それにアクション映画といっても流行のVFXをふんだんに使ったものでなく、デジタル化以前のハリウッドを思わせる正統派のアクション映画だったから、初めからブロックバスターを狙えるものでもなかった。
ファンとしては、彼の映画を思い出すことでその死を悼むしかない。過去に見たトニーの映画から3本を挙げてみる。
『マイ・ボディガード』(2004)
好みで言えば、トニー・スコットの映画ではこれがいちばんと思う。原作はA・J・クイネル『燃える男(Man on Fire)』。元CIAの暗殺者で生きる目的を失った主人公が、メキシコの富豪に娘のボディガードとして雇われる。前半は失意でアル中になった主人公(デンゼル・ワシントン)の凍った心が娘(ダコタ・ファニング)との交流でゆっくり融けていく過程が、後半は麻薬・誘拐カルテルとのすさまじい対決が印象深い。一瞬挿入される黒々としたポポカテペトル山のショットが主人公の心象風景のようで、アクションに翳を与えていた。それまで正義派の役どころが多かったデンゼル・ワシントンが新しい面を開いた作品でもある。
『スパイ・ゲーム』(2001)
アクション映画監督としてのトニー・スコットが自分のスタイルをつくった一作、と思う。それまで『トップガン』や『ビバリーヒルズ・コップ2』で注目されてはいたけれど、兄のリドリーが『ブレードランナー』『エイリアン』とノワール感あふれる傑作を連発していたから、作家的な兄に比べて弟は単純なエンタテインメントか、という思い込みがあった。それがタランティーノ脚本の『トゥルー・ロマンス』で、おや、と思わせ、『スパイゲーム』では新しいエンタテインメントのスタイルを見せてくれた。
引退を目前にしたスパイが、中国で捕われ見殺しにされた後輩の危機を救う。デジタル技術を借りておそろしく速いテンポで物語を展開させながら、ロバート・レッドフォードとブラッド・ピッドの友情物語もちゃんと描く。アクションと人物描写を両立させて、1960年代のロバート・アルドリッチの映画を思い出した。
『アンストッパブル』(2010)
監督としてはこれが遺作になるのか。機関車が暴走する。2人の乗務員が、それを止めようとする。単純明快な設定でアクション映画の見本のような快作。リストラを通告されたベテラン機関士(デンゼル・ワシントン)と、コネで車掌になった若造(クリス・パイン)がいがみあいながらも協力するのは定石通りだけど、それを定石と感じさせないのは2人が抱える問題や家庭をちゃんと描いているから。機関車が暴走するペンシルバニアの工場地帯や郊外の風景も素晴らしい。
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