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June 23, 2012

高味壽雄君を悼む

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memories of Takami Toshio

中学・高校以来の友人、高味壽雄君が亡くなった。こう書くだけで、身体から力が抜けていくのを感じる。

入院して3週間。末期の肺癌と肝硬変に加え、肺炎を併発した。病名から想像できるように、高味君は最後まで強い酒とタバコを好んだ。酒の席ではウィスキーのオンザロックに始まり、やがて「氷はいらない、ストレートで」になる。入院してHCU(高度治療室)に入ってからも、酸素を肺に取り込もうと大きく口を開け、苦しそうに呼吸しながら、友人のUにタバコを吸いたいと訴えた。

腰や肩に激痛を覚えながらぎりぎりまで大きな病院に行かなかったのは、身体を蝕む癌細胞とその転移を予感していたのか。苦痛に耐えながら、最後の最後まで友人や鎌倉のご近所、大学の教え子たちと一緒によく飲み、大量の煙を吸い、議論し、遊び、ウェブ上で発信を続けた。好きなことだけをやり、好きなように生きた。

高味君が8年前に始めたブログ「Radical Imagination」は去年の3.11、東日本大震災と原発事故の後、スイッチが入り直したように活発になった。ブログだけでは足らずにツイッターやfacebookも使ってメディアが報じない情報を集め、この国のシステムのおかしさを指摘し、住民の動きを支援し、反原発を訴えた。事故直後は昼夜を問わすメッセージを出しつづけて、おそらくほとんど寝ていなかったと思う。「少し休んだら」とメールしたこともあった。

僕のこのブログは本と映画と音楽の軟派なサイトだけれど、そこで書くことについて常に高味君のブログを意識していたことは間違いない。そもそもこのブログを始めたきっかけも、ITを駆使してデザイン/反デザインを教えていた高味君に影響されてのことだ。

高味君とは中学・高校時代から亡くなる直前まで、ある時期は頻繁に会い、ある時期は疎遠になったりした。別の大学に進んで疎遠になった時代に一度だけ会い、鮮明に覚えている場面がある。

1967年10月8日、佐藤栄作首相のベトナム訪問に抗議する新左翼の「羽田闘争」で、京大生の山崎博昭が死んだ日。京急蒲田駅近くで、機動隊に蹴散らされ追われたデモ隊が数百人、ただの群集になって逃げていた。僕もそのなかの一人だったわけだが、交差点で別方向から逃げてきた別のグループが合流したと思ったら、いきなり目の前に高味君の顔が出現したのだった。一瞬立ち止まり、互いに顔を見合わせて「やあ」と一言だけ言って笑い、また別れて走った。

その後、高味君は同じ高校の友人の名前を借りて返還前の沖縄に潜行したと聞いた(これについては当事者のNがブログ「ブック・ナビ」の6月16日に書いている)。再会したのは、その日から20年後のこと。それからは年に一、二度会い、会えば新宿や銀座で深夜まで飲んだ。氷はいらない、ストレートでとは、たいてい終電もなくなった深夜に飛び出すセリフだ。

冒頭の古い写真は、高校3年の秋、運動会の夜に打ち上げをやったときのもの。高校生の打ち上げとはいえ、アルコールも入っている。前から2列目、左から3人目、ワイシャツを脱いで白シャツで写っているのが高味君。本郷から通い、テニス部に属し、クラシック音楽が好きで、埼玉の工場地帯に育った僕から見ると山の手の香りを漂わせる少年だった。映画や(彼は古典好き、僕はゴダールから座頭市から手当たり次第)音楽や(彼はクラシック、こちらはジャズ)、激しくなっていたベトナム戦争のことを話した。

還暦を過ぎてからも、高見君と議論すると「Radical Imagination」というブログ名の通り彼は常にラディカル(根底的)な立ち位置を取ろうとした。その姿勢は昔から変わらない。この歳になると、目指す方向は共有していても、道筋についてはけっこう意見が食い違う。そんなとき、一拍おいてスイッチを入れ替えると、瞬時に高校時代の馬鹿話に興じていたときの関係に戻れる。それが中学・高校以来の友達ということだったろう。

高味君とは、いつでも会えるし、いつまでも語り合えると思っていた。それなのに高味、君はふっといなくなってしまった。病院から斎場に搬送された君に会ったとき、病院ではあんなに苦しげに呼吸していた君が穏やかに微笑んでいるのに、もう額は冷たくなっていた。淋しい。


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