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May 13, 2012

『捜査官X』 裏目読み武侠映画

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Wu Xia(film review)

40年前に学生だったころ雑誌『映画芸術』の編集長は小川徹という男で、彼が書く映画論は「裏目読み」と称されていた(小川が編集する『映画芸術』の常連、虫明亜呂無や斉藤龍鳳の映画論はものすごく面白かった)。

そのころハリウッドには、レッドパージで追放された7人の監督・脚本家ほど大物ではないものの、コミュニストとの関係を疑われた何人もの監督や脚本家がいた。彼らは追放されることをまぬがれ、ハリウッドで主にエンタテインメント映画をつくっている。彼ら(例えばロバート・アルドリッチ)がつくる映画には表面的には何の政治的メッセージも読み取れないけれど、映画のそこここに作り手の思いや主張がさりげなく埋め込まれている。それを目に見える形で(時には作り手の思惑も超えて)取り出してみせるのが「裏目読み」だ、と小川徹は言っていた。

この「裏目読み」の手法はハリウッドだけでなく、日本の当時の5社体制のなかで娯楽映画をつくっていた左派の監督(例えば深作欣二)の作品にも応用できる。そうした「資本の論理」が貫徹する国々の映画だけでなく、表現に対して政治的統制がある国々の映画にも「裏目読み」は適用することができる。今で言えば、映画への統制を目に見えて強めている中国映画にも有効かもしれない。

そんなことを思い出したのは『捜査官X(原題:武侠)』(ピーター・チャン監督)を見て、この香港・中国製の武侠映画は当然中国での収益を当てにしているからいろんな配慮があるけど、「裏目読み」してみるとけっこう面白いなあと感じたから。

清朝滅亡後の中国、雲南の僻村で殺人事件が起こる。やってきた捜査官シュウ(金城武)が調べると、殺されたのは2人の凶悪犯だった。2人が強盗しようとした現場に紙漉き職人のジンシー(ドニー・イェン)が居合わせ、彼の正当防衛から2人が死に至ったことが分かる。調べるうちシュウはジンシーが只者でないことに気づき、その正体を探る……。

映画の後半で、ジンシーの背後にいるのが13世紀に滅んだ西夏王国の血を引く暗殺集団「七十二地刹」であることが知れる。西夏は中国西北部にチベット系のタングート族がつくった国で、中原の漢民族国家である唐や宋に対抗し、やがて勃興したモンゴルに滅ぼされた。清の時代には、「タングート」とはチベットを意味したという(平凡社・世界大百科)。

七十二地刹は、西夏80万の民が虐殺されたことの恨みを晴らすために代々の暗殺集団となっていた。ジンシーは実はその七十二地刹の首領の息子だったのだ。映画では七十二地刹は悪役で、暗殺集団を抜けたジンシーとカンフーで激闘を繰り広げる。それが映画のクライマックスになっている。

当然のことながら悪漢は敗れ、傷ついたジンシーは妻のアユー(タン・ウェイ)、子供たちとの平和な生活に戻る。このラストシーンはチベット系タングートの末裔であるジンシーが、中国に同化したとも読める。

でもここでもうひとつ面白いのはアユーが少数民族ふうの刺繍が入った衣装を着ていることで、どうやら彼女も漢民族ではないらしいことだ。僕は雲南に行ったことがあるけど、雲南は苗(ミャオ)族やイ族など少数民族が多数を占める地域。ということは、ジンシーは最後に漢民族と同化したというより、暗殺集団と縁を切りながら少数民族としての矜持を保ちつづけたということになる。

この映画から少数民族の抵抗と復讐というテーマを読み取るのが過剰な「裏目読み」かどうか分からない。でも、中国でこの映画を見る人のある部分は、ジンシーと七十二地刹の背後に弾圧されているチベットを、あるいはウィグルやモンゴルを感ずるんじゃないかな。

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Comments

>ジンシーと七十二地刹の背後に弾圧されているチベットを、あるいはウィグルやモンゴルを感ずるんじゃないか

なるほど、一理ありますね。そういう見方をするとまた考えさせられます。

Posted by: rose_chocolat | May 13, 2012 at 08:51 PM

私が若いころは、東映ヤクザ映画や大映の座頭市みたいなエンタテインメントに政治的・社会的意味を(時に過剰に)読み込む「裏目読み」的な評論が流行ってました。そういうのを楽しんだクセが抜けてないようです。

Posted by: 雄 | May 13, 2012 at 10:07 PM

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