« 柳家小三治を聞きに | Main | しゃくなげに蜂と蜘蛛 »

May 03, 2012

『裏切りのサーカス』 小説と映画の相似

Tinker_tailor_soldier
Tinker, Tailor, Soldier, Spy(film review)

『裏切りのサーカス(原題:Tinker, Tailor, Soldier, Spy)』の原作、ジョン・ル・カレの『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』を読んだのはもう30年以上前のことになる。

細かなところはなんにも覚えてない。でも、スパイ小説につきもののアクションやサスペンスは皆無。会話による頭脳ゲームだけで組織に潜む二重スパイをあぶりだしてゆくこの長編は、同じ英国諜報部員を主人公にしたイアン・フレミングの007シリーズ(高校時代に読みふけった)とは対照的に、動きのほとんどない、沈鬱な空気が今も記憶に残っている。

映画も、小説の世界をそのまま映像化してる。派手なシーンはいっさいなし。作戦の失敗で英国諜報部(通称サーカス)を引退したスマイリー(ゲイリー・オールドマン)が、諜報部トップ4人に潜むソ連のスパイ(もぐら)を摘発する任務につく。

普通のスパイ映画なら、スマイリーの宿敵・ソ連KGBのリーダーであるカーラや、もぐらが三角関係を結ぶスマイリーの妻などを登場させるところだけど、この映画ではカーラもスマイリーの妻も後姿を見せるだけ。設定や物語の面白さで映画をドライブする普通のスタイルは徹底して避けられている。いかにもイギリスふうの渋い映画だなあ。

もっとも監督はスウェーデン出身で、『ぼくのエリ 200歳の少女』のトーマス・アルフレッドソン。シャープな映像と演出で見る者を惹きつける。

小説の元になっているのは「キム・フィルビー事件」。ケンブリッジ卒のエリートであるキム・フィルビーがソ連に通じ、英国諜報部の幹部になって情報をソ連に流した。それが明らかになり、フィルビーはソ連に亡命した。事件はイギリス中を震撼させ、ジョン・ル・カレだけでなく、グレアム・グリーンもこの事件を基に『ヒューマン・ファクター』を書いている(こちらもアクション皆無のスパイ小説だった)。

現実の事件は1950~60年代、原作が出たのは1970年代だから過去の物語なんだけど、アルフレッドソンの映像とセットや調度品などの美術はノスタルジックな空気をまったく感じさせない(撮影はホイテ・ヴァン・ホイテマ)。

むろん建物や車や航空機は古いものだけど、サーカス内部の図書室や会議室などポスト・モダンにしつらえられ、今ふうな映像で切り取られている。そのことからも想像されるように、アルフレッドソンはこれを冷戦時代の過去の物語としてではなく、現在にも通ずる国家への忠誠と裏切りの物語としてつくろうとしているようだ。

エンタテインメントではないけれど、緊迫感あふれて楽しめる映画でした。

|

« 柳家小三治を聞きに | Main | しゃくなげに蜂と蜘蛛 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/41136/54599031

Listed below are links to weblogs that reference 『裏切りのサーカス』 小説と映画の相似:

» 裏切りのサーカス / TINKER, TAILOR, SOLDIER, SPY [我想一個人映画美的女人blog]
ランキングクリックしてね larr;please click 元MI6諜報部員であり、スパイ小説で有名なジョン・ル・カレ彼がMI6在職中に実際に起きた事件を基に書き上げ、ldquo;スパイ小説の金字塔rdquo;と呼ばれた小説、 『ティンカー、テイラー、ソルジャー...... [Read More]

Tracked on May 03, 2012 at 11:00 PM

» 本格的スパイ [笑う社会人の生活]
24日のことですが、映画「裏切りのサーカス」を鑑賞しました。 英国諜報部のサーカスに潜むソ連の二重スパイを 捜し出す指令を受けた 引退したスパイ スマイリーだったが・・・ スパイ映画ですがM:Iシリーズなど よくあるスパイ映画とは違い アクションはなく 派手さも...... [Read More]

Tracked on May 06, 2012 at 10:19 AM

» トーマス・アルフレッドソン監督【裏切りのサーカス】Tinker Tailor Soldier Spy [映画雑記・COLOR of CINEMA]
※注・内容、台詞、もぐらについて触れています。ジョン・ル・カレの小説「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ( Tinker Tailor Soldier Spy )」を「ぼくのエリ 200歳の少女 [Read More]

Tracked on May 06, 2012 at 07:43 PM

» 二重スパイは誰だ? ~『裏切りのサーカス』 [真紅のthinkingdays]
 TINKER TAILOR SOLDIER SPY  1970年代、東西冷戦時代の英国。MI6内英国諜報部「サーカス」 のリーダ ーであるコントロール(ジョン・ハート)は、組織の中にKGBの二重スパイがいる と...... [Read More]

Tracked on May 11, 2012 at 08:35 AM

« 柳家小三治を聞きに | Main | しゃくなげに蜂と蜘蛛 »