乳頭温泉巡り 孫六温泉
家族の湯治を兼ねて、乳頭温泉郷に5日ほど行ってきた。乳頭温泉郷は八幡平の秋田県側、乳頭山の山懐に点在する温泉で、新しくできた国民休暇村を含め7つの温泉がある。盛岡から秋田へ抜ける田沢湖線の田沢湖駅からバスで小1時間。平日の午後早い時間とあって、終点までの客は他にいなかった。
孫六温泉は乳頭温泉郷のいちばん奥にある一軒宿。バス停から林道を15分ほど歩くと、ひなびた湯治場といった感じの宿が見えてくる。
宿の脇を先達川が流れる。かなりの急流で、ところどころに人工的に段差が設けられ、ごうごうと轟いている。
昔ながらの玄関。宿は老夫婦がやっていて、孫娘の亭主である若いにいちゃんが町から通いで手伝いに来ている。
玄関脇に木村伊兵衛の有名な「秋田おばこ」のポスターが貼ってあった。
温泉は宿の外、河川敷にある。内湯が「石の湯」「唐子の湯」のふたつ、露天風呂が3つある(ひとつは女性専用)。
「石の湯」。河原の大石を利用した湯だから、この名前をつけたんだろう。湯は透明で、ちょうどいい熱さ。かすかに硫黄の匂いがする。湯の出口で漉しているが、その手前には硫黄の湯の花が沈殿し固まっている。背を石にもたせて足を伸ばし、じっと川の音を聞いていると体と心がほぐれ、山の湯へやって来たなという気分になる。
小屋の外へ出て露天風呂へ。ここはまた別の源泉で、やはり湯は透明。「石の湯」よりぬるいから、長く入っていてものぼせない。両手をこすると、きゅっきゅとする感じ。ほかに泊まり客はいないので、4つの温泉を独り占めの贅沢。
標高800メートル。新緑の季節だけど、対岸の斜面にはまだ雪が残っている。今年は雪解けが遅いそうだ。
このあたり、冬は4メートル近い雪が降る豪雪地帯。バス停から宿までの道は、にいちゃんが自家用の雪かき車で除雪するという。近くの黒湯は冬季は営業をやめてしまう。どうして孫六はやってるの? と聞いたら、冬を楽しみにしてるお客さんがいるし、人がいないと雪で家が傷んでしまうから、ということだった。
夕食は山の宿らしく岩魚の塩焼きに山菜づくし、いぶりがっこ(タクワンの燻製)の漬物。初めて食したシドケの味噌あえが旨い。
岩魚の骨酒。酒はオリジナルの「孫六」。やや甘口で飲みやすい。冷やでもいける。
秋田名物、きりたんぽ鍋。
締めは稲庭うどん。骨酒が効いて、いい気分になってしまったなあ。
翌朝起きると、雨。深い霧。肌寒い。昼近くなっても霧雨はやまない。だからといって、この日は宿に滞在するのでちっとも困らない。この日も他に泊り客はいないし、天気が悪いから日帰り入浴の客もほとんど来ない。温泉につかり、部屋で布団にもぐりこんでを繰り返しながら一日を過ごす。
自家発電で宿にはテレビもないから、楽しみは読書。旅に持ってきたマイクル・コナリー『エンジェルズ・フライト』2巻を読み耽る。読んでいなかった昔の作品。今回はロス市警内部の暗闘。ヴェトナム世代であるボッシュ刑事が抱える屈折が犯罪者の闇とシンクロしてしまう、いつものパターンだけど、やっぱり面白い。
これはまた別の露天。いちばんぬるい。雨に顔を打たれ、暮れてゆく風景を眺めながら長湯する。自家発電なので、湯は夜10時に真っ暗になる。
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