『ドライヴ』 日本映画の匂い?
Drive(film review)
『ドライヴ(原題:Drive)』の寡黙な一匹狼の主人公を見ながら、ありえない感想が頭をよぎった。これってまさか『遊侠一匹 沓掛時次郎』のアメリカ版リメイクじゃないよなあ。
『遊侠一匹』は長谷川伸の原作を加藤泰監督が中村錦之助主演で映画化した股旅ものの傑作だ。流れ者。寡黙で、しかし武器を取ったら凄みのある使い手。殺して(死なせて)しまった男の、子連れの妻へのひたむきな愛。抑制と爆発。闇の豊かな情感。物語の設定も主人公の造型も映画の雰囲気も、2本の映画はとてもよく似てる、と思った。
クエンティン・タランティーノが日本の任侠・ヤクザ映画に入れ込んだのは有名な話だけど、デンマーク出身のニコラス・ウィンディング・レフン監督が股旅映画まで見ているとは思えない。もう少しあるうる可能性としては、この主人公の造型にはジャン・ピエール=メルヴィル監督のフィルム・ノワールの影があり、メルヴィルにはアラン・ドロンが寡黙な暗殺者に扮した『サムライ(Lu Samourai)』があることから分かるように日本映画への興味があり、それが間接的に『ドライヴ』に流れ込んで、どこか日本映画と共通の匂いをもつ作品になったという仮説。ほとんど冗談だけど。
昼は映画のスタント・ドライバー。夜は強盗の逃亡を請け負う闇のドライバー。主人公が名前を持たず単に「ドライバー」(ライアン・ゴズリング)と呼ばれるのは、ダシール・ハメットの名無し探偵「コンティネンタル・オプ」以来のハードボイルドの伝統を背負っているということだろうか。
主人公の「ドライバー」が映画のスタント・ドライバーで、その腕に投資するマフィアが元映画プロデューサーという設定からも窺われるように、この映画にはさまざまな映画的記憶が散りばめられている。そもそも犯罪者の逃亡を請け負うドライバーという設定自体、1970年代にライアン・オニールが主演した『ザ・ドライバー』とまったく同じだし、ウィンドーの外に広がる夜の都会の艶やかな風景は、ロサンゼルスとニューヨークの差はあれ『タクシー・ドライバー』のテイストによく似てる。VFXを使わない(ように見える)カーチェイスはスティーブ・マックイーンの『ブリット』以来のカーチェイス映画へのオマージュだろう。
それまでクールで抑制の効いた優男の主人公が、エレベーターで彼を狙う男を殺すところからいきなりサディスティックな暴力男に豹変するのは、リアリズムの観点からは納得がいかないけど、わざとB級映画のテイストにしてるのかもしれない。「ドライバー」がいつもサソリの刺繍の入ったブルゾンを着ているのも、マフィアを演ずる怪優ロン・パールマンの起用もそう。
いろんな意味で映画好きの心をくすぐる小粋な映画でしたね。こういう面白い小品にぶつかるのが、映画を見る楽しみのひとつ。だから、ハズレ覚悟でいろんな映画に手を出してしまう。ヒロインのキャリー・マリガンのくしゃっとした笑顔がかわいい。
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