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February 09, 2012

『ペントハウス』 「99%」の逆襲

Towerheist
Tower Heist(film review)

『ペントハウス』の原題はTower Heist(タワー強盗)。ニューヨーカーなら、「タワー」と言えばセントラル・パークの南西角、コロンバス・サークルに面した、不動産王ドナルド・トランプが所有する58階建ての「トランプ・タワー」を連想するんじゃないかな。

実際、映画のなかで「タワー」はセントラル・パークとコロンバス・サークルに面している設定だから、誰が見てもトランプ・タワーだ。wikipediaによれば、そもそもこの映画が最初に企画されたときのタイトルは「Trump Heist(トランプ強盗)」だった。

トランプは現にこのトランプ・タワーに住んでいる。実在の大富豪から強盗しようという企画だったのだが、トランプもトランプで、メディアへの露出大好きな彼は、タワーの外観や内装についてこの映画のプロダクション・デザイナーに協力している。大富豪の部屋にピカソやウォーホールの大きな絵がかけてあるのは、トランプの部屋も実際そうなのかもしれない。そういうことも含めて、これはいかにもアメリカ的なコメディでしたね。楽しめます。

ジョシュ(ベン・スティラー)は1戸5億円する高級コンドミニアム「タワー」のマネージャー。リッチな住民の要望に応え、ご機嫌を取るのが仕事だ。ペントハウス(最上階)に住むウォール街の投資家で大富豪のショウ(モデルは当然トランプ)とは、チェスのパソコン対戦仲間。ショウにはタワー従業員の年金の運用を託していたのだが、ショウは金融詐欺で逮捕され、従業員たちは年金を失ってしまう。ぶち切れたジョシュはショウのペントハウスで暴れて解雇される。職を失ったジョシュは、同じく解雇された仲間たちとショウが部屋に隠している隠し金20億円を強奪する計画を立てる。

……と書いてくれば分かるように、これは『オーシャンズ11』みたいな泥棒映画のパロディでもある。『オーシャンズ11』は犯罪のためにいろんな分野のプロを集めるけれど、ジョシュが集めるのは元従業員で気弱なコンシェルジェ(ケイシー・アフレック)や先住民系のボーイ、タワーを追い出されたウォール街の負け組(マシュー・ブロデリック)といった頼りにならない素人たち。仲間に引き入れた泥棒のスライド(エディ・マーフィ)も、ベランダで小金になりそうなものしか盗まないこそ泥で、鋼鉄製の金庫など開けたこともない。しかも抜け駆けして金を独り占めしようとする。

そんな素人集団が、タワーの構造を知り尽くし、働いているのは皆顔見知りということだけを武器に、セキュリティ堅固でFBIも監視しているショウのペントハウスにいかに忍び込むか。ジョシュがFBIの女性捜査官といい感じになったり、気弱な元コンシェルジェが復職の話に飛びついて仲間を裏切ったり、アフリカ系のメイド(ガボレイ・シディベ)が思わぬ能力を発揮したり、泥棒映画の定式を踏まえ(脚本のテッド・グリフィンは『オーシャンズ11』も手がけた)、笑いをちりばめいいテンポ。

「お前はクビだ」というセリフが出てくるけど、これはドナルド・トランプが自ら製作・主演したNBCテレビのリアリティ・ショーで連発し、流行語になった決めゼリフだ。アメリカの映画館では爆笑だったろうな。タワー屋上のペントハウス専用プールの底に巨大な100ドル札が描かれているのも笑える。

そしてクライマックスの犯行は感謝祭の日に行われる。セントラル・パークに面した大通りに群集がつめかけパレードが行進する最中に、タワー屋上から純金製のフェラーリが吊り下げられたり、カーチェイスが繰り広げられたり。SFXも使ってるだろうけど、こういうのを実際にロケで撮影するんだからコメディといっても騙され甲斐がある。

これもwikipediaによると現実の感謝祭の数日後に撮影されたらしい。マンハッタンの目抜き通りを多分半日くらいは通行止めし、実際のパレードと同じ出し物が使われている。もちろんトランプ・タワーも協力してるだろう。金だけでなく、こういうことが普通に出来るからアメリカ映画は面白くなる。

お約束どおり、犯行はもちろん成功する。「持たざる者」が「持てる者」からまんまと財産を奪い返し、めでたし、めでたし。

こういう映画がコメディとして成り立つのは、アメリカの「持てる者」の持つ財産がケタはずれに大きいからだろう。去年のウォール街占拠デモのスローガンは「1%対99%」だったけど、アメリカでは上位1%の世帯が全米の富の33%を所有し、上位5%が60%を握っている(小林由美『超・格差社会アメリカの真実』)。その最上位には純資産10億ドル以上のビリオネアが400世帯いるが、ドナルド・トランプの純資産は30億ドルといわれるから(wikipedia)、間違いなくその特権階級の一員。だからこそ「悪者」として成り立つわけだ。

日本でも金融資産を持つ最上位層に富が集中し、格差が拡大しつつあるとはいえ、ここまで極端ではないし、ヒール役の金持ちとして思い浮かぶ顔もない。

悪評も評判のうち。ドナルド・トランプはこの映画を見て、ガハハハと笑ったんだろうな。


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