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January 19, 2012

『ヒミズ』 殴る張る映画

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Himizu(film review)

才能あふれてるけど作品に出来不出来の落差が大きいアーティストって、よくいるよね。小説家でいえば村上龍なんかそうだけど、園子温もひょっとしたら同じタイプかもしれない。傑作『冷たい熱帯魚』を見た後、『恋の罪』『ヒミズ』という出来損ないの作品を立て続けに見て、そう思った。2本とも退屈しないし、部分的にはすごく面白い。でも見る者を虚構の宇宙に引きずりこむ全体の完成度は、明らかに欠けている。

『ヒミズ』で作品をドライブさせる力になっているのは暴力、とりわけコブシで殴る、平手で張る、といった人間のいちばん原始的な暴力だ。祐一(染谷将太)と景子(二階堂ふみ)がコブシで殴る殴られる、平手で頬を張る張られるたびに、物語がコトリと動いていく。園子温の映画はストーリー展開も描写も過剰さが命だけど、登場人物たちは実によく殴ったり張ったりしている。まるでコブシや平手でもって相手とコミュニケーションしているみたいだ。祐一と景子が五七五で言葉をつなげながら詰まった相手を張るゲームは、明らかにそのようなものとしてある。

映画の背景になっている東日本大震災。津波で家を失った人々が、人と人のつながりをなくして祐一のボート場の周りにホームレスとして暮らしている。祐一の家庭も景子の家庭も崩壊し、親子関係すら断絶しているなかで、スクリーンを見ている観客も共有する殴り殴られる痛さ、張り張られる痛さだけが唯一信じられる人と人のつながりだと園子温は言っているみたいだ。

ただ、コブシや平手の痛さの向こうに見えてくるはずの物語は、僕にはどうにも腑に落ちないものだった。家庭崩壊した祐一の「普通」願望→父親の帰還・祐一への暴力→父親への逆転した暴力と死→「おまけ人生」の「悪人」探しと殺意→景子の愛による再生という展開が、原作のマンガがどうなっているのか知らないけど、僕にはどうも突き刺さってこない。

冒頭、教室で教師が「みんなオンリーワン」とSMAPみたいなセリフを叫ぶのを祐一と景子は冷たく見ていた。最後に自首を決め(社会のルールに従うことを決め)た後、2人が土手を走りながら叫ぶ「頑張れ、住田!」は、暴力と死の地獄めぐりをした挙句にもう一度「普通」に回帰したということかもしれないけど、60年以上生きてきたすれっからしの人間には、その熱が映画として空回りしているようにしか感じられなかった。たとえそこに東日本大震災の映像がかぶってきても。

とはいえ東日本大震災を、多分製作の途中で急遽映画に取り入れたことは評価したい。映画はフィクションだけど、フィクションを通して現実と相渉る。一面の瓦礫のなかを登場人物がさまようショットは、ちゃんとフィクションとして成り立っていた、と思う。ドキュメンタリーを別にすれば、東日本大震災をフィクションに取り入れた最初の映画として記憶に残るだろう。

ヴェネツィア映画祭で新人俳優賞を取った主役の2人を囲んで、園子温組ともいうべき面々(おまけに吉高由里子や鈴木杏まで)が次々に出てくるのを見ているだけでも飽きない。キム・ギドク『魚と寝る女』にインスパイアされたような貸しボート場の風景も風俗映画の味わいがあっていいな。


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