キップ・ハンラハン+菊地成孔を聞く
Kip Hanrahan featuring Kikuchi Naruyoshi live
キップ・ハンラハンという名前は、ジャンルを超えて実験的な音を送り出す音楽プロデューサーとして覚えていた。
彼がつくったCDでいちばん有名なのがアストル・ピアソラの『タンゴ・ゼロ・アワー』で、これは僕も持っている。ピアソラを伝統的なタンゴのジャンルからもっと広い音楽世界へと引き出した名作だ。ハンラハンはそんなプロデューサーとしての仕事以外に、自分名義で何枚ものCDを出している。僕は聞いたことがないけど、ハンラハン自身は演奏しないらしい。そのキップ・ハンラハンのバンドに菊地成孔がゲストで加わるライブがあるというので出かけた(12月9日、表参道・BLUE NOTE)。
まずはピアノとアコースティック・ベースが出てきて、美しいメロディーのデュオ。それが終わるとメンバーが暗い通路を歩いてきて楽器の前に立つ。ラテンドラムをセットしたドラムスが2人、コンガ、エレクトリック・ベース、エレクトリック・ギター、アルト・サックス、ヴァイオリン、そしてキップ・ハンラハン。ハンラハンは長髪で、老ヒッピーふう(といっても僕より若い)。何をするのか見ていると、テンポを設定し、きっかけを出す。音楽が始まれば、後は座って見ているだけ。コンガ奏者とジョークを言い合っている。
ギターとエレキ・ベースの2人が主にヴォーカルを担当。ヴォーカルといっても、歌うというより言葉を投げ出す感じ。それに、バンドとしてひと色の音を出すというより、フィーチャーするミュージシャンの個性に合わせて音をつくっているように思う。どの曲も、きっちりしたリズム・セクションの上でコンガが自由奔放に踊る。フリージャズ、ロック、R&B、カントリー、キューバ、カリブ海などいろんな音楽の断片が浮かんでは消える。それらを通底してアンダーグラウンドな匂いがするのがキップ・ハンラハンの音楽なんだろう。ハンラハンはブロンクスの生まれ育ちだから、ニューヨークの音とも言えるかも。
日本からは日仏混血の歌姫マイア・バルーと、後半になって菊地成孔が参加。菊地はフリージャズふうにばりばり吹きまくる。それを聞きながら、菊地がもっている二つのバンドのうちペペ・トルメント・アスカラールはキップ・ハンラハンの音にインスピレーションを得たのかもしれないな、と思う。
他では聞けない種類の音楽で、しかも心地よい。そんな音に聞きほれ、終電の時間が迫っているのも忘れてしまった。この日はハンラハンの誕生日ということで、アンコールはベース奏者による「Happy birthday to Kip」のおまけつき。
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