売り家アリ
よく行く散歩道が四つほどあるけど、久しぶりに行くと見慣れた風景が変わっている。「駒場スタジアム・コース」に行くのは春以来。一軒の家に「売り家」のビラが貼ってあるのを見た。
この家のことはよく覚えている。数年前に新築されたとき、建売りではなさそうな設計、特に2階の一部と玄関が赤で統一されアクセントになっているのが目を引いた。
近づいてビラを見ると、売値は5980万円。キャッチコピーに「大空間LDK約23.5畳」とある。隣の「こんな方におすすめです」のビラには、「自宅で料理教室を開きたい方へ」とある。間取りを見ると、1階は広い吹き抜けのリビング・ダイニングに和室と風呂、2階は洋間が2間。1階から2階へは吹き抜けを螺旋階段で上る。こういうスタイルが好きな人には「お洒落」な家に違いない。
この家に誰かが住んでいたとき「料理教室」の看板があった記憶はないから、家族が自宅として使っていたんだろう。1階に和室があり、ビラに「バリアフリー」とあるから、親がいたのかもしれない。2階の洋間は「3つに間仕切り可能」と書いてあるから、将来、子供部屋にと考えたのかもしれない。
とすると、子供のいない夫婦が、どちらかの片親と暮らしていたのか。高齢の親は和室を好むだろうから、料理教室が開けるほど広いリビング・ダイニングで、夫婦2人きりお洒落な時間を過ごすのを楽しみにしていたのか。
それが新築して数年、どうした事情で「売り家」になったものか。否。こんな時代だからついそう考えてしまうけど、親が亡くなり、事業もうまくいって、「埼玉生まれのお母さんが死んだから、東京湾を見下ろす贅沢な高層マンションで暮らしたいわ」なんて奥さんの希望で引っ越したかもしれないじゃないか。
見慣れた風景の変化を見つけ、そんなことを妄想しながら歩くのも散歩の楽しみのひとつ。
近くの神社では、いちょうの紅葉がまだ盛りだ。
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