映画 今年の10本( 2011)
1 ブンミおじさんの森
2 悲しみのミルク
3 無言歌
4 サウダーヂ
5 冷たい熱帯魚
6 アンストッパブル
7 さすらいの女神<ディーバ>たち
8 ビューティフル
9 ゴーストライター
10 モンガに散る
1 タイ映画。映画を見始めて半世紀以上になるけれど、こんな感触の映画をはじめて見た。人間と動物と精霊と幽霊が何の不思議もなく同居している世界。タイは仏教の国だけど、東南アジアの仏教以前、人間が森で暮らしていた時代の空気を肌身に感じた。
2 ペルー版『天国と地獄』。黒沢明版は山の手の「天国」と崖下にある下町の「地獄」の対比だったけど、ペルーでは「地獄」の貧民街は山上にある。黒沢版では刑事が天国と地獄を仲介していたけど、ペルー版に仲介者はなく、先住民の少女と白人系「持てる者」が直にぶつかりあう。先住民にとって「マジック・リアリズム」はマジックでもなんでもなく、当たり前のリアリズムなんだな。
3 上映時間9時間のドキュメンタリー『鉄西区』は評判が高く、秋にも上映されたが見損なった。そのワン・ビン監督の劇映画第1作。映画製作の方法も内容も、腹の据わったインディペンデント映画。中国国内では上映禁止になっているが、明らかな毛沢東批判。中国にもこんな映画が出てきたんだ。
4 こちらは日本のインディペンデント映画。甲府を拠点に、資金も地元の個人や企業中心に集めているようだ。地方都市を舞台にした地元住民や在日外国人のドラマ。インディペンデントということで下駄をはかす必要が全くない完成度の高さ、斬新さ。日本にもこんな映画が出てきたんだ。
5 今年から来年にかけて園子温監督の映画が『冷たい熱帯魚』『恋の罪』『ヒミズ』と3本も公開され、乗りに乗ってる印象がある。『ヒミズ』は未見だけど、『冷たい熱帯魚』は園監督の過剰さ(内容も描写も)が見事に結晶した一作だと思う。それにしても、でんでんが豹変する瞬間は怖かった。
6 今年のハリウッド製エンタテインメントのベスト。リュミエールの昔から、映画と列車ってどうしてこうも相性がいいんだろう。蒸気機関車は19世紀前半、映画は19世紀後半と、ともに19世紀の発明。当時の最新テクロロジーが今や時代遅れの技術やメディアとなりつつあり、その共振がある種の質感と懐かしさを醸しだしているのかも。
7 この映画、好きだなあ。港町、キャバレー、旅回りの一座とくれば、日本なら艶歌の世界。でも艶歌のようにベタつかず、透明感のある映画。しょぼくれた座頭マチュー・アマルリックの哀しみがたまらない。
8 観光地ではないバルセロナの風景が素晴らしい。「余命○ヶ月」ものだけど、涙や感動の押しつけがなく、不法移民の外国人と接して生きる下層の男ハビエル・バルデムを通して都市のリアルが見える。
9 『戦場のピアニスト』以来、ロマン・ポランスキーは復調したみたい。ポランスキーお得意の「不安心理」ドラマ。品のいいミステリーとしても楽しめた。若いころ見た記憶が甦る、こういう古いテイストの映画が好きだ。
10 台湾映画。今年のノワール&青春映画のベスト。台北でいちばん怪しげで面白い一帯、萬華を舞台にしているのもいいなあ。
他に10本の候補として考えたのは『監督失格』『マイ・バックページ』『ウィンターズ・ボーン』『SOMEWHERE』『ブラック・スワン』『ヒア・アフター』『奇跡』など。どれも楽しんだけど、後の3本はそれぞれの監督の前作・前々作、『レスラー』『グラン・トリノ』『空気人形』が素晴らしかったので、それと比べてしまい損してる。
今年もおつきあいくださって、ありがとうございました。皆さま、よいお年をお迎えください。
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