『ウィンターズ・ボーン』 冬の死体
映画にはいろいろな楽しみ方があるけれど、そのひとつは、映画でなければ生涯行かないような場所と、そこで暮らす人々に出会えることだろう。もちろん映画はフィクションだけど、リアルさを求める作品なら、大なり小なりその地域と住民の存在を反映しているはずだから。『ウィンターズ・ボーン(原題:Winter's Bone)』もそんな映画だった。
舞台はミズーリ州のオザーク高地。僕は1年間アメリカにいて旅行もしたけれど、ミズーリのオザーク高地なんて名前も知らなかった。ミズーリは中西部と呼ばれる合衆国中央部にあり、中西部といえば一面の穀物畑が広がる大平原というのが一般的イメージだから、こんな山の暮らしがあることを映画で初めて知った。
17歳の少女リー・ドリー(ジェニファー・ローレンス)の家は父親がドラッグ製造の罪で収監され、彼女が精神を病む母と12歳の弟ソニー、6歳の妹アシュリーの生活を支えている。そこへ保安官がやってきて、保釈された父が行方をくらまし、このままでは保釈金の担保になっている家と森を明けわたすしかない、と告げられる。リーが父親を捜しはじめるのが映画の発端。
リーは伯父ティアドロップ(ジョン・ホークス)の家へ行くが、首をつっこむなと脅される。そこには近づくな、と警告された家に行くと、邪険に追い返される。誰もが父親について聞かれるのを嫌う。どうやら父は村ぐるみのドラッグ製造組織の一員で、村のおきてを破ったらしい。
『ウィンターズ・ボーン』はオザーク高地のオール・ロケで撮影され、地元民も出演しているという。リーの家をはじめ、村の貧しさに胸を打たれる。どの家も開拓時代と変わらない粗末な小屋。寒い冬を迎えるのに、食料も薪も足りない。隣家の主婦が見かねて、シチューにしなさいと野菜をもってくる。肉は森で捕えるシカかリス。リーは弟のソニーに銃の撃ち方を教えながらリスをしとめ、皮の剥ぎ方、内臓の処理の仕方も教える。
リーの家が森を持っているということは、かつては林業もしながら自給自足的生活を営んでいたのだろう(リーは、森を取られる前に樹齢100年の木を売れとアドバイスされる)。ところがそれでは生活が成り立たず、村ぐるみでケシ栽培とドラッグ製造に走った、という設定になっているらしい(説明的なセリフがほとんどないから、推測)。村人たちはドラッグをつくりながら、自らも中毒になっている。製造組織のボスは牛の牧畜業者。ミズーリは牧畜業が盛んだから、そんな現実を背景にした設定だろう。
デブラ・グラニック監督の長編第2作。説明的な描写を避け、リーの行動を追うことで謎が解けてくるミステリーのスタイルもいいし、オール・ロケで撮影された山村の寒々した風景や、灯りのない室内がリアル。タイトルがそこから来ているらしい、夜の湖で死体(bone)の文字通り骨を切るシーンはじめ、沈んだ調子の画面が見事だ(撮影はマイケル・マクドノー)。
それ以上に素晴らしいのが、リーになるジェニファー・ローレンス。『あの日、欲望の大地で』のジェニファーはかわいい少女だったけど、この映画では家族を支え、暴行されてもひるまない精神を備えた大人びた少女を演じている。彼女の魅力があればこそ、この重く暗い映画が輝いて見える。
アメリカの貧困と犯罪という暗部に目を向け、オール・ロケで製作費を抑えるとともにリアルさを求める。インディペンデントらしい映画(wikipediaによると製作費200万ドル)。もっともリーという少女の造型は、ラストで「無茶したな」という言葉に「ドリー家の人間だもの」と答えさせたり、西部劇の伝統を踏まえたいかにもアメリカ人好みだと思う。


Comments
素晴らしかったですね。
おっしゃる通りジェニファーが光っていて、リーの志がそのままこの映画の魅力でもあり柱でもありました。
Posted by: rose_chocolat | November 06, 2011 06:22 PM
この映画、同じくサンダンス映画祭で賞を受けた『フローズン・リバー』と比べられてますね。僕もそう思いますし、映画としては『フローズン・リバー』のほうがいい出来と思いますが、この映画が勝っているのは役者でしょう。ジェニファーはいわゆる美形ではないけれど、芯のある美しさを感じさせていいですね。これからが楽しみです。
Posted by: 雄 | November 07, 2011 11:42 AM