村越としや展「FUKUSHIMA」
Murakoshi Toshiya photo exhibition
蔵前の長応院という寺のなかにギャラリー空蓮房がある。住職が鍵を開けてくれた扉と中の潜り、2度にわたって茶室の躙口(にじりぐち)のような入口を身をかがめて潜りぬけると、8畳ほどの閉ざされた空間がある。漆喰なのか別の素材なのか、床も壁も真っ白。身をかがめる動作、上下左右を白色に囲まれる体験、そこにいるだけで五感が日常を離れてゆくのが感じられる。ここでは年に数回、写真展や美術展をやっている。
今やっているのは村越としや「FUKUSHIMA」(12月10日まで。要予約)。福島出身の村越が、3.11の前と後に故郷を撮った写真で構成されている。
入口すぐの広い空間に展示されているのは、3.11前の風景。といって特別なものが写っているわけでなく、どことも区別がつかない農村風景や森や山並みが横長の紙に暗い調子でプリントされている。奥の狭い空間に展示されているのは3.11後の風景。ここでも村越は地震の被害をことさら強調することなく、野に放たれたままの牛など、一見なんでもない風景を撮影している。
とりあえず「前・後」という展示になっているけれど、そこに過大な意味を持たせているわけではないらしい。ふつう写真家なら、写真に写らない放射能を絵としてどう表現するかに苦心するものだけど、村越はそのことにも興味がなさそうだ。とはいえ3.11の前と後で、福島の風景はなにかが変わっている。その見えないなにかに、村越は目をこらしているように思える。
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