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October 08, 2011

『さすらいの女神<ディーバ>たち』 It's show time!

Tournee
On Tour(film review)

港町、キャバレー、旅する一座とくれば、笑いあり涙ありの絵にかいたようなロード・ムーヴィーを想像してしまう。

確かにその通りではあるんだけど、でも『さすらいの女神たち(原題:Tournēe)』を見ていて、古いなあとか、くさいなあ、とかはまったく感じない。古い酒を新しい革袋に入れるって言い方があるけれど、思い入れたっぷりではなく、ある距離をおいた、暖かくもあり覚めてもいるような視線で登場人物を眺めていることが、この映画を懐かしさと新しさが入り混じったものにしていると思う。その微妙なブレンド具合が素敵だ。

見事なブレンダーはフランスの役者、マチュー・アマルリック。この映画では脚本を書き、監督し、主演も務めている。この古くて新しい感じは、視線のありようだけからでなく素材からも、一座の出しものである「ニュー・バーレスク」からも来ているようだ。

TVの敏腕プロデューサーだったジョアキム(マチュー・アマルリック)はトラブルで業界を追われ、アメリカに渡って「ニュー・バーレスク」の一座を組織し、フランスに戻って復活を図る。

もともとバーレスクは19~20世紀前半に劇場やキャバレーで演じられたお色気たっぷりのダンスやショー。僕は知らなかったけど、それが1990年代にニュー・バーレスクとして復活したらしい。この映画のミミやダーティ・マティーニ、ジュリーを演ずるのは本当のニュー・バーレスク・ダンサーたちだ。

かつてのバーレスクは男性を楽しませるためのものだったから、男の興味や関心に合わせた肉体や踊りが求められた。ところがニュー・バーレスクは女性が主体になって自ら演じたいものをつくり、それを男性も女性も楽しむものになっている。ダンサーたちは男の欲望に応える若さを求められる訳ではないから、中年の崩れた体型でも、巨大な腰や胸をむしろ誇らしげに揺らして自分を解放する。

ニュー・バーレスクは、男と女の意識の変化という時代の流れを反映しているようだ。だからマネージャーのジョアキムとダンサーたちの関係も主従関係ではない。ジョアキムはミミたちの芸にアドバイスはしても、決めるのは彼女たち。

一座はルアーブルに始まり、ナント、ロシュフォール、トゥーロンと港町をめぐってパリを目指す。でもジョアキムに恨みをもつ業界人の妨害でパリの劇場が決まらない。ジョアキムは、かつての仲間のプロデューサーや愛人だった女性ディレクターに会って助けを求めるけれど、うまくいかない。殴られ、突き飛ばされる。別れた妻と一緒にいる2人の息子に会いたいジョアキムは、息子たちを旅回りに同行するけれど、彼らはジョアキムを冷たい眼で見ている。

そんなジョアキムの旅の日々を、マチュー・アマルリックはさりげない描写で見せる。町から町へ移動して泊まる安ホテルで、カウンターに備えられたキャンディやマッチを必ずつかんでポケットに入れる。音楽とダンスを出しものにしているのに、ホテルやレストランで音楽がかかっていると、止めてくれと頼んでいやな顔をされる。それはジョアキムの貪する姿やエゴイズムであるかもしれないが、同時に彼の悲しみも伝えてくれる。

舞台を離れると、ジョアキムは彼女たちの面倒を見てはいるけれど、実は開けっぴろげで陽気な彼女たちによって癒されている。ジョアキムはミミたちにそんな自分の思いを直に伝えられなくて、マイクのテストをしながら、スピーカーを通して彼女たちに語りかける。

イヤな奴であり、同時にシャイで傷つきやすい男でもあるそんなジョアキムに、カメラは感情移入するわけでなく、かといって突き離すでもなく寄り添っている。その距離感が絶妙だ。

最後に一座は、海を望む寂れたホテルにやってくる。プールに水はなく、割れたガラスのドアは板で補修されているようなところだ。別行動でベッドを共にしたらしいジョアキムとミミが、一座と再会し、彼らは陽気にはしゃぐ。そこでもまたジョアキムは自分の思いを直ではなくマイクを持って、スピーカーを通してダンサーたちに語りかける。「It's show time!」

起承転結の「結」がないような唐突な結末だけど、その突然の終わり方に感ずる悲しみは深い。

「ドサ回りもの」にはピーター・フォークが女子プロレスのマネージャーになった『カリフォルニア・ドールズ』とか、ポール・ニューマンがプロ・アイスホッケー選手になった『スラップショット』とか忘れがたい佳作があるけど、それに新たな1本が加わった。

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Comments

「ドサ回りもの」いいですよねぇ。
新たな1本の佳作に加えてもらえて嬉しいですー。
嫌な男ジョアキムのトホホっぷりからにじみ出る"悲しみ"にはグッとくるものがありました。はい。

Posted by: かえる | October 10, 2011 at 09:41 AM

まだロード・ムーヴィーなんて言葉が一般的でなかった時代の「ドサ回りもの」は、人のもつ悲しみをテーマにしていたんでしょうね。
大人のエンタテインメントだと思います。
「さすらいの女神たち」は、そのテイストを濃厚にもっていましたね。

Posted by: 雄 | October 13, 2011 at 10:31 PM

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