ミシェル・ルグラン 贅沢な時間
Michel Legrand trio live, splendid!
ミシェル・ルグランといえば、『シェルブールの雨傘』はじめフランス映画音楽の作曲家としてあまりにも有名だ。でも今日聞きにいくミシェル・ルグランは、作曲家というよりジャズ・ピアニストとしてのルグラン。彼のライブをクラブで聞けるなんてめったにない機会だと思い、楽しみに出かけた(9月5日、表参道・BLUE NOTE)。
ミシェル・ルグランが若いころからジャズ好きで、何枚かのアルバムを出していることはジャズ・ファンならよく知ってる。なかでもルグラン編曲・指揮による『ルグラン・ジャズ』はニューヨークでマイルス・デイビス、ビル・エバンス、ジョン・コルトレーン、ベン・ウェブスターといったキラ星のようなスターたちを擁して録音したスタンダード集。昔、ジャズ喫茶でよくかかってたなあ。
ビッグ・バンドふうな編成だけど、カウント・ベイシーみたいな管楽器を重ねた重厚なサウンドというより、華麗な編曲と次々繰り出される豪華メンバーのソロが印象的なカラフルで洒落たジャズ。「ジャンゴ」「ラウンド・ミッドナイト」といった名曲を、あ、ここマイルスだ、これ、コルトレーンだな、ウェブスターいい音だなあ、なんて楽しんだっけ。
でもこのアルバムでは、ルグラン自身は編曲・指揮だけでピアノを弾いてない。ピアニストとしてのアルバムはちゃんと聞いたことがないので、どんな音が出てくるの? そんな期待もあった。
Pierre Boussaguet(b)、Francoi Laizeau(d)とともにご機嫌でステージに現れた御大、足元がやや覚束ないけど、ピアノの前に座って紡ぎだすのは、美しく、ちょっとメランコリックな旋律。若い頃つくった曲らしいけど、ルグラン・メロディは聞けばすぐ分かる。歳のせいか、さすがに音に力はないけど、いい音色です。
自分の曲を中心に、たっぷり7曲。時にビル・エバンスみたいに端正で、時にミシェル・ペトルチアーニみたいに繊細で、マッコイ・タイナーみたいに速弾きで、かと思うとファンキーがかったりもする。自作のバラード「これからの人生」では甘美なルグラン節全開だし、「マイルスの思い出に」と言って弾いた「ディンゴ」(マイルスと共作)ではマイルスのトランペットそのままにスキャットで歌う。クラシック(誰の曲か聞きとれなかった)もジャズにする。いろんな曲をいろんなスタイル、いろんなテンポで自在に戯れ、そのどれもが見事なジャズ。すごい。
アンコールは極めつけ「シェルブールの雨傘(I Will Wait for You )」を、オーソドックスな演奏に始まり、ボサノバ、ニューオリンズ、タンゴから最後はロシア民謡にしてみせて、会場は大盛り上がり。
80歳になろうとする巨匠の遊び心に満ちた至福の世界。いや、贅沢な時間でした。
Comments
いやー、本当に贅沢な時間でしたねぇ。
当たり前のことながら、CDで聴く曲のトーンはいつも同じですが、こんなにも自由自在にアレンジされるんだというのが、すごく楽しいLIVEの醍醐味でした。
Jazzに造詣の深い雄さんも、そうでない私も満足のステキなステージでしたねー。
Posted by: かえる | September 10, 2011 07:51 AM
これを機にジャズ熱&生演奏ジャズ熱を発症されたとのこと。ぜひ重症患者になってください。
確かにBLUE NOTEは気楽に行ける値段じゃありませんけど(その割に演奏時間が短いのが不満)、六本木はじめ、たくさんあるジャズクラブならリーズナブルな値段で聞けます。日本人ジャズもいいですよ。オーディオで聞くのと生で聞くのと、他の音楽に比べジャズほど差の激しい音楽もない(いい意味で)と思います。
それにしても、何度でも言いたくなりますが、素晴らしい時間でしたね。
Posted by: 雄 | September 10, 2011 11:31 AM