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July 02, 2011

『ビューティフル』 見えないバルセロナ

Biutiful
Biutiful(film review)

『ビューティフル(原題:Biutiful)』で素晴らしいのはバルセロナの風景だ。バルセロナといえば反射的に思い浮かぶ燦々と輝く光、青い海、ガウディの建物がある瀟洒な町並みといった観光の定番は、この映画にはまったく登場しない(サグラダ・ファミリアが夕陽にシルエットで浮かぶ短いショットが2度登場することを除けば)。

狭く汚いアパートメントが密集する丘の斜面。その黒々とした俯瞰。そこには不法移民のセネガル人や中国人が暮らしている。目抜き通りはコピー商品を売るセネガル人が警官に追われる場所としてしか登場しないし、海には劣悪な環境のアパートで事故死した中国人たちの死体が浮かぶ。

アパートのシミだらけの壁に浮き出るマリア像。天井にとまる蛾の黒い影。這い回るアリ。雨に濡れる洗濯物。煙突から湧き出る煙。空中のロープには、靴らしきものが吊るされている。そんな空ショットが繰り返し挿入されて、観光客には見えないバルセロナのもうひとつの風景がリアルだ。

ヨーロッパの都市がどこでもそうであるように、バルセロナにも不法移民のコミュニティがある。ウスバル(ハビエル・バルデム)は都市のそんな底辺に子供二人と暮らし、不法労働をあっせんしたりコピー商品を卸したりして生活している。

その一方、ウスバルには霊的能力があるらしい。不慮の死を遂げ天国へ行けない死者の霊を、天国へ送り届ける霊能者としても金を得ている。ウスバルは末期ガンに侵され余命2カ月と宣告されるのだが、苦しみのなかで、部屋の天井に人がへばりついているのを幻視するショットが2度、繰り返される。そんなふうに、リアルのなかにアンリアルな光景が突然差し挟まれてドキッとする。

薬物中毒で精神を病んだ元妻(マリセル・アルバレス)。夫が故国へ強制送還されたセネガル人の妻。ウスバルの二人の子供のハウスシッターである中国人の母子。不法移民を使う中国人ボス(どこかで見た顔と思ったらジャ・ジャンクー『世界』に出ていたチェン・ツァイシェン)と、「恋人」の男。

ウスバルの生活圏にいる人間たちの、貧困や犯罪と隣り合わせに生きる姿が点描される。ウスバルは子供たちのために金を残し、身辺を整理しようとするのだが、彼の善意は必ずしも報われない。その結果、ハウスシッターの母子や中国人移民を死なせてしまう。ウスバルの金を預かったセネガル人女性は、そのまま姿をくらまそうとする。病んだ元妻は、同居した子供たちの心を傷つけてしまう。

僕は「難病もの」映画が好きでないのでほとんど見ないけど、『ビューティフル』で「余命2カ月」を宣告されたウスバルのドラマは完結しない。おそらくウスバルは、人生にカタをつけられず死んでゆくしかないのだろう。辛うじて、ウスバルの父に対する思い(ウスバルの父はフランコ独裁を逃れてカタロニアに来たらしい)を、ウスバルの子供に対して伝えられたのが、かすかな光ということになるのか。

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(製作・監督・原案・共同脚本)とロドリゴ・プリエト(撮影)のメキシコ組は、いまハリウッドでいちばん濃密な人間ドラマをつくる映画人だと思う。『アモーレス・ペロス』『21グラム』『バベル』そして『ビューティフル』と、2人の共同作業(『バベル』までは脚本のギジェルモ・アリアガも共通)は、時に過剰すぎる物語の面白さ、描きこまれた人間の彫りの深さ、映像の鮮やかさで際立っている。

ハビエル・バルデムは『それでも恋するバルセロナ』(ウッディ・アレン)に続いてバルセロナもの主演。『それでも恋する…』はセクシーなアーチストだったけど、こちらは底辺で苦悩し、家族のために戦う男。『ノー・カントリー』の不気味な殺人者は極めつけだけど、素顔のインタビューではそんな個性的な男とは見えなくて、役者の凄さを思い知らされた。

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